英メディアLADbibleが、「いまは本当は西暦1726年で、約300年の歴史が作り物だった」と主張するPhantom Time(幻の時間)仮説を紹介し、SNSで再び話題になりました。
References:LADbible
提唱者はドイツ人のヘリベルト・イリグ。
彼は西暦614〜911年の出来事は“捏造”で、ローマ皇帝オットー3世や教皇シルウェステル2世らが“1000年”に合わせるため年号をごまかしたと主張します。
記事は同仮説の奇抜さを取り上げつつ、史実との矛盾点にも触れています。
1) 何が報じられたのか
LADbibleは、「人類史の約300年が作り物」という中核主張と、614〜911年が空白だという具体的期間、さらに関係者とされる3人(オットー3世/教皇シルウェステル2世/ビザンツ皇帝コンスタンティノス7世)の“共謀”説を紹介。
加えて、もし本当ならヴァイキングの襲来やカール大帝の存在、アルフレッド大王の治世までも作話になるはずだと述べています。
一方で、当時の世界各地の記録の充実や3者の生没年の整合性など、反証のポイントも挙げ、懐疑的視点で締めています。
2) 幻の時間仮説とは
イリグ(1991年提唱)は、西暦体系そのものが後から“約300年”水増しされたとする修正年代学の一派です。
核となる論拠は「記録の薄い“暗黒時代”に年号操作が紛れ込んだ」という推測で、614〜911年(約297年)を“虚構”と位置づけます。
もしこれが正しければ、カール大帝(シャルルマーニュ)やカロリング朝の史実は架空であり、私たちは実は“約1700年代”にいる計算になります。
3) 主要な反証(学界コンセンサス)
(a) 同時代の多元記録が豊富
唐代中国やイスラム世界、東ローマ、アングロサクソン諸王国など、欧州外も含めた膨大な編年史・碑文・貨幣・書簡が614〜911年に密集しており、互いに照合可能です。
世界各地が一斉に“作話”を共謀したと仮定しない限り成立しません。
(b) 年輪年代法・放射性炭素年代測定・天文現象がつながる
年輪年代法(樹木年輪)や土層・花粉層の連続性、日食・彗星出現など天文現象の記録は連続的時間軸を裏づけます。
614〜911年の“穴”を設けると、自然科学の独立手法と整合しません。
(c) “共謀者”の時間軸がそもそも噛み合わない
仮説に挙げられる3者の生没年は大きくズレ、同時共謀は年代的に不可能です(例:コンスタンティノス7世の死去は959年で、教皇シルウェステル2世就任は999年、オットー3世の誕生は980年)。
(d) 「1000年待望説」を動機にするのは弱い
“1000年の特別な年にしたい”という動機づけ自体が、広域の社会システムを改竄できる実務的根拠にはなりません。
各地の暦法・税制・土地台帳・修道院記録を統一的に書き換えるコストは非現実的です。
学術的には“魅力的だが証拠がない仮説”と位置づけられ、歴史学・考古学の主流からは支持されていません。
4) なぜ信じたくなるのか(心理と情報環境)
- 欠落の魅惑:
史料の薄い時代は、“隙間を埋める物語”が生まれやすい。 - 単純な説明の快感:
複雑な史料批判より「300年がごっそり抜けた」のほうが記憶に残り共有されやすい。 - SNS拡散:
刺激的見出し→短い要約→観念的反論の応酬で、元情報の質や一次資料への到達が阻害されがち。
LADbibleも懐疑的に結んでいるとはいえ、話題化の力学で仮説自体が“再活性化”します。
5) こう読めば安心:チェックポイント5
- 一次史料の所在(碑文・貨幣・写本):
地域横断で参照できるか。 - 自然科学の裏づけ:
年輪・放射性炭素・火山灰層など独立検証は一致するか。 - 天文記録:
日食・彗星の年代照合が連続しているか。 - “動機と実務”の整合:
改暦・記録改竄のコストを当時の通信・権力で本当に実行できたか。 - 反証への応答:
反証(例:唐・イスラム・ビザンツの連続記録)に検証可能な反論があるか。
→ 総合すると、“幻の時間”より“連続する時間”を支持する証拠が圧倒的というのが現在の学術的な結論です。
6) それでも面白いポイント:歴史の作り方入門として
この仮説は誤りであっても、歴史をどう検証するのかを学ぶ良い教材になります。
- 史料批判:
写本の異本比較、作成年代の古文書学的手がかり。 - 比較年代学:
貨幣・言語変化・建築様式など非文字史料の総合。 - 学際手法:
自然科学×人文で時系列を“複線”で確かめる。
こうした“複眼”があるからこそ、大胆な仮説も健全に検証できます。
まとめ
- LADbibleは“約300年が作り物”というPhantom Time仮説を紹介しつつ、当時の多元記録や当人たちの年代矛盾などの反証も提示しています。
- 学界の見解は明確で、年輪・放射性炭素・天文現象・多地域の史料の相互整合から、“連続する時間”が支持されます。
- 奇抜な仮説は拡散しやすい一方、“検証の作法”を学ぶ入口にもなる。
話題をきっかけに、一次史料と科学的年代測定へアクセスを広げることが大切です。



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