「長生きするだけでなく、若く見られたい」。
バイオハッカーとして知られるデイブ・アスプリー(Bulletproof創業者・51歳)が、“フェイシャル・サーカムシジョン(facial circumcision)”と呼ぶ施術を受け、自身の臀部(お尻)から採取した脂肪と細胞を顔に注入したと明かしました。
References:LADbible
報道は「永遠に生きたい」野望とともに、その過激さで拡散。
ここでは何が起きたのか/医学的には何が言えるのか/どんなリスクがあるのかを、一次情報と学術・規制の文脈から整理します。
報道の要約
- 施術の内容:
アスプリーはコスタリカの再生医療クリニックで、皮膚を“切らずに”微小に除去して引き締める処置(のちほど詳述)を実施。
その後、自身の臀部から採取した脂肪と“幹細胞”の注入、高圧酸素療法などで回復を加速したと語っています。 - 本人発信:
本人のSNSでは、「1億個の幹細胞+自分の臀部の脂肪を顔に注入して治癒を早めた」と説明。
可視化された“術後フェーズ”の語りが拡散の燃料になりました。 - 皮膚除去の規模:
顔面の皮膚を合計約28平方インチ(クレジットカード約4枚分)取り去ったという記述が報じられています。
フェイシャル・サーカムシジョンとは何か
アスプリーがそう呼ぶ処置は、美容医療の領域で近年市販化された“マイクロコアリング(micro-coring)”に相当します。
中空針で皮膚の微小コア(柱)を多数くり抜き、最大で治療域の約8%の皮膚を除去してたるみやシワを改善するアプローチ。
切開線を作らないため、理論上は瘢痕が目立ちにくいとされます。
要は「切らない“皮膚の断捨離”」。
多数の極小孔で余剰皮膚の体積を目減りさせ、皮膚が引き締まったように見せる発想です。
報道では、コスタリカの再生医療クリニックで前述の“皮膚マイクロ除去”後に、自家脂肪+幹細胞の注入、高圧酸素療法などを組み合わせたとされています。
価格感についても言及があり、米国内なら同等施術で数万ドル規模との記載。
なぜ「お尻の脂肪・幹細胞」を顔に?—再生医療と美容の現在地
脂肪移植(fat grafting)は美容・再建で長く使われてきた手法で、ボリューム補填だけでなく、脂肪組織に含まれる間葉系前駆細胞(いわゆる“脂肪由来幹細胞”)が皮膚質感の改善などに寄与する可能性が示唆されてきました。
近年の総説でも、顔面の再生的効果を示す知見が蓄積しつつある一方、生着率は6か月で約50%再吸収など、結果のばらつきも指摘されています。
ただし、「“幹細胞”を濃縮して注入すれば若返る」という単純図式は科学的に未確立。
エビデンスの質はまだ均質ではなく、適応・製造・品質管理の不確実性が問題になります。
リスクと規制:幹細胞は魔法のことばではない
米国では未承認の幹細胞投与による健康被害が相次いで報告され、FDAは取り締まりと注意喚起を継続しています。
とくに脂肪組織由来製品は、無菌性の逸脱や感染リスク、製造の一貫性欠如などが問題視されてきました。
一方、米国の一部州では未承認の細胞治療を“患者の選択”の名で容認する動きもあり、規制のほころびが議論に。
科学的根拠が弱いまま市場が拡大するリスクが指摘されています。
重要:同様の施術を検討する場合、適応・方法・製造管理・合併症の説明が文書で明確な医療機関(倫理審査や追跡体制がある)を選ぶのが最低ラインです。
個人輸入や観光医療の広告には誇大表現が混在します。
どこまでが「新しい」のか
- 施術テクノロジー:
マイクロコアリング自体は既存で、“切らずに皮膚体積を減らす”アプローチはすでに米国でデバイス承認がある方式(ellacor)に基づきます。
アスプリー独自の発明ではありません。 - プロトコルの組み合わせ:
皮膚コアリング+自家脂肪/細胞注入+高圧酸素といった複合プロトコルは、術後回復や見た目の相乗を狙った“総力戦”設計。
ただし効果量と持続は個体差が大きく、幹細胞の寄与分は現状で定量困難です。
知っておきたい実務的ポイント
- 術式の本質は「皮膚の微量除去」。
リフトアップ=皮膚切除という原理は同じでも、切開線を作らずに達成しようとする“別ルート”です。 - “幹細胞”の言葉づかいに注意。
採取・調製・投与法のディテールが不明瞭な宣伝は警戒。
未承認療法のリスクとトラブル事例は公的文書にまとまっています。 - コストは数万ドル規模+回復プロトコル費という報道。
複数回施術やタッチアップも前提になりがちです。 - 期待値は「たるみ・質感の改善は見込めても、万能の若返りではない」。
“盛った前後写真”は光・角度・むくみで大きく変わります。
学術レビューでも効果のばらつきは繰り返し指摘。
まとめ
- アスプリーの施術は、中空針で皮膚を微小除去する“マイクロコアリング”と、自家脂肪/細胞注入+回復支援を組み合わせた既存テクノロジーのパッケージ。
「お尻の細胞を顔へ」はその中の自家組織利用を誇張的に切り取った表現です。 - 有効性は示唆される一方、幹細胞の確実な若返り効果はまだエビデンス形成の途中。
未承認療法の安全性・品質には強い注意が必要です。 - もし関心があるなら、術式の仕組み(何をどれだけ除去/注入するか)、製造と滅菌の管理、合併症率と対処体制、長期追跡データを医療機関に文書で確認すること。
“バズる施術”ほど、裏側の地味な品質管理が命です。



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