米ニューヨーク州・セネカ湖で何世紀も語り継がれてきた「大砲のような轟音(通称 Seneca Guns / Seneca Drums)」について、湖底からの地質ガス(主にメタン)の突発的噴出が原因であることを示す決定的証拠が見つかった――と10月31日付のOddity Centralが報じました。
References:Oddity Central
調査は2018~2024年にかけた高解像度測量と、2025年の現地採水・堆積物サンプリングに基づくもので、1934年に提案されていた「地下ガス噴出説」を裏づけた形です。
Seneca Gunsとは何か(現象と伝承)
セネカ湖周辺では、遠雷や大砲の斉射にたとえられる低く重い一発音が不定期に聞こえると古くから言い伝えられてきました。
19世紀の作家ジェームズ・フェニモア・クーパーも短編『The Lake Guns』(1850)で言及。
先住民セネカの人々は、聖域を汚した戦士を罰する“偉大なる精霊”の声だと解釈し、開拓民は独立戦争で命を落とした兵士の太鼓だと語った、と伝承は多彩です。
1934年の仮説と、長すぎた未解決期間
科学的説明が本格化するのは20世紀。
1934年、地質学者ハーマン・フェアチャイルドが「地下にたまったメタンが湖底を破り、水面で巨大な泡が破裂して衝撃波を生む」という機構を提示しました。
ただし現象は突発・散発で、当時の観測手段では検証が難しく、仮説の域を出ませんでした。
高解像度測量が変えた前提
転機は2018~2024年の湖底測量。
当初は19世紀の蒸気船など沈没船の3D記録が目的でしたが、その副産物として、南部の湖底に直径数十~数百メートル級のくぼみ(“ポックマーク”)が140か所以上見つかりました。
研究者はこれらがガス噴出痕ではないかと推定。
後続の採水・分析で、地質ガス関与の有力性が確認されたと報じられています。
2025年の現地調査:ESF×コーネルの共同チーム
2025年9月、SUNY環境科学林学大学(ESF)とコーネル大学の研究者が湖底複数地点で水・堆積物サンプルを採取。
ニューヨーク州環境保全局(DEC)と州水資源研究所の助成(約1.27万ドル)も明示され、プロジェクトの目的は「ポックマークからメタン等が放出されているかの検証」と「水質影響の把握」とされています。
地元局WENYや研究者ブログも、“Seneca Drums”の実体解明に向けた採水作業を報じました。
仕組み:なぜ「大砲のように」聞こえるのか
地中で蓄圧されたガスが限界に達すると、湖底を破って一気に放出され、巨大な気泡となって上昇します。
水面で泡がはじける瞬間、急激な圧力変化(衝撃波)が発生し、周囲に低い周波数のドンという一発音として伝わる――これが“砲声”の正体と考えられます。
海洋調査で使うエアガンの作動原理を想像すると近いイメージですが、セネカ湖の場合は自然の“バースト”です。
「解明」か、「最終確認待ち」か
Oddity Centralは1934年説の“確認”と表現していますが、公的側の説明は一段慎重です。
州の助成告知(5月)は「穴がメタン等を放出しているかを調べる」という書きぶりで、9月の採水ニュースも「原因特定を目指す」段階と伝えています。
総合すると、機構仮説は実地観測で強力に裏づけられたが、学術論文等での最終確定はこれから――という理解がフェアでしょう。
伝承と地学が交わる場所
“Seneca Guns”は、単なる怪現象のラベルではありません。
先住民のタブーと罰の物語、開拓の記憶と恐れ、19世紀文学の想像力が折り重なり、「音の正体」をめぐる多層的な文化史を形づくってきました。
科学は伝承を駆逐するのではなく、現象の“作動原理”に光を当てる。
その結果、伝承は新しい読み方を獲得します。
環境への示唆:メタンは強い温室効果ガス
今回の現象自体は局所的ですが、対象となるメタンはCO₂より短期の温室効果が強いガスです。
湖沼・湿地・海底など自然起源のメタン放出を理解することは、気候の将来推定や、地域の水質管理にも資する可能性があります。
研究者コミュニティは近年、自然源メタンの増加傾向を注視しています。
なぜ最近は静かになったのか?
地元の観察では、近年は“銃声”を聞く頻度が減ったという指摘もあります。
1930年代以降のガス井開発が地下圧を抜き、突発的噴出の発生条件を弱めたのではないか、という整合的な仮説も述べられています(確定ではありません)。
この点も、湖底の化学指標や長期モニタリングで検証可能な仮説と言えるでしょう。
まとめ
セネカ湖の“謎の砲声”は、湖底ガスの突発噴出→巨大泡の破裂→衝撃波という単純だが観測の難しい自然現象だった――この図式が、地形証拠と採水調査で強く支持されつつあります。
伝承は消えるのではなく、科学によって“どのように語られてきたのか”を含めて保存されます。
最終的な学術発表が公表されれば、何世紀も続いた問いに公式のピリオドが打たれるでしょう。



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