北海道の土地は本当に「狙われている」のか――野口健×堀江貴文の応酬から考える、規制と現実と私たちの打ち手

国内

発端はアルピニスト・野口健氏のX投稿。
「ニセコ、富良野、トマム…北海道が少しずつ外国資本に飲み込まれていく。新たな法整備が必要だ」と危機感を表明し、鈴木知事にも言及しました。

これに対し実業家の堀江貴文氏が「笑。じゃあお前が買えよ」とリプライ。
賛否が二分され、土地規制の中身が改めて論点化しています。

野口氏は続く投稿で、倶知安町での農地転用を含む開発計画外国人労働者向け住宅の整備計画など、具体的な案件名を挙げつつ「点と点が線でつながる」と警鐘を鳴らしました。

観光地化・リゾート化資本の流入、農地・水源・森林という資源の保全のせめぎ合いが、北海道で濃く表面化しているのは確かです。

「何が問題なのか」を分解する

安全保障・インフラの観点

2021年施行の重要土地等調査法は、防衛施設・原発・空港や国境離島等の周囲を注視区域/特別注視区域に指定し、土地の利用実態の調査や、機能阻害行為に対する勧告・命令、特別注視区域での売買事前届出を可能にしました。

ただし、土地の取得自体を一律に禁じる法律ではない点が誤解されがちです。

水源・森林の観点

北海道は水源地の取引届出を義務付ける水資源保全条例を全国に先駆けて制定。
現在、21道府県に同種条例が広がっています。

一方、外国資本による森林取得は道内で3,830ha/317者(2024年末時点累計)と公表され、実態把握は進むが未然防止の統一ルールは未整備という現状が見えてきます。

農地・食料の観点

農地法は投資目的の取得を原則認めず、効率的利用などの許可要件を課しています。
2025年4月から運用が厳格化され、短期在留者の取得が制限されるなど管理が強化されました。

農水省の最新公表では、外国法人等による農地取得は年175ha(全体0.2%)全国農地の0.004%
数字としては小さい一方、観光地周辺の転用圧など局地的な負荷は無視できません。


要するに、安全保障/水と森林/農地という性質の異なる領域が重なり合い、全国統一の網自治体ごとの条例個別審査のパッチワークで対応している——これが今日の「土地問題」の実相です。

「規制すべきは何か」を具体化する

  1. 重要土地法の“穴”を埋める
    水源地・導水施設など生命線インフラを、区域指定や機能阻害規制の明確対象に。
    現在は防衛・原子力・空港等が中心で、水資源は各自治体条例に委ねられているため、国レベルのミニマム・スタンダードを設けるべきです。

  2. 水源地取引の“全国必須ルール”化
    北海道モデル(契約の数カ月前届出)をベースに、上流域の土地取引事前届出+実質審査のレイヤーを標準化。
    条例格差の是正で、抜け道探しを抑えます。

  3. 森林取得の“事前段階”管理
    現行の森林法の所有者届出(事後)に加え、面積・位置に応じた“事前通知”枠を導入。
    保全協定や管理計画を取得条件に組み込む仕組みが要ります。

  4. 農地転用(宅地化・宿泊化)審査の強化
    観光地周辺の集中的な転用は、景観・治水・生態系・交通への影響がセット。
    立地適正化/環境影響のミニレビューを義務化して、局所的な負荷を前提に審査をアップデート。

  5. 実所有者(最終受益者)の透明化
    売買届出・所有者届出・区域内届出のオンライン一元化最終受益者情報の付記を徹底。
    “誰の土地か分からない”問題は安全保障でも環境でもボトルネックです。

  6. 公有化・保全型の選択肢を太くする
    東京都水道局が水源林の約9割を自ら保有しているように、公的保有+長期保全は強力です。
    併せてナショナル・トラスト(民間・自治体が寄付で土地を買い取り/保全契約で守る)を税制含め後押しし、“守りたい土地は社会で買う”回路を広げましょう。

堀江氏の指摘「お前が買えよ」は的外れか

このフレーズは挑発的ですが、「保全は誰が費用を負担するか」という本質を突いています。

現状、外資規制だけで自然や水源は守れない。

公的取得/トラスト/保全協定など“社会で支払う回路”が細いままでは、売り手の選好=資本の論理が勝ちやすい。
法で守る“線”社会で買う“面”の両輪が必要です。

同時に、すべての外国投資が悪ではない点も忘れてはなりません。
データで見ると農地取得の割合はごく小さく投資が地域雇用や観光価値を高める局面もあります。

論点は“どの土地で、どんな目的の投資か”を選別できる制度設計にあります。

私たちにできること

  • 地元のルールを知る:お住まいの自治体に水源地保全条例があるか確認。
    事前届出義務の有無対象区域を把握しましょう。無ければ制定の要望を。

  • 区域指定のパブコメに参加:重要土地法の注視/特別注視区域指定や運用のパブコメは定期的にあります。
    水インフラも対象にという意見提出は実効性があります。

  • “買って守る”に参加日本ナショナルトラストや地域のトラスト団体に寄付・会員登録。
    保全契約地役権的な協定の支援も力になります。

  • 農地・森林の売買を見かけたら届出・許可制度の遵守をチェック。
    疑義があれば自治体窓口に情報提供を。

  • 相続登記を怠らない2024年から相続登記は義務化
    所有者不明土地を増やさないこと自体が外部の恣意を防ぐ基礎体力です。

よくある誤解を正す

  • Q:重要土地法で“外資の土地取得”は止められる?
    A:取得自体の全面禁止ではなく、指定区域内での利用実態調査・機能阻害への是正・一部届出が柱。目的外利用を抑える法律です。

  • Q:外資が“日本の農地を大量取得”している?
    A:最新公表は年175haで、全国農地の0.004%。数字は小さいが、地域・用途の偏在には目配りが要ります。

  • Q:条例があれば安心?
    A:自治体ごとの“強さ”に差。全国最低基準+自治体強化がベストです。

まとめ

野口氏の危機感は、資源(農地・水源・森林)を誰がどう管理するのかという根源的な問いです。
堀江氏の挑発は、その費用を誰が負担するのかを突き付けます。

一律な外資排除“買える人だけ買って守る”個人任せかの二択ではなく、

重要土地法の適用領域を水源など生命線へ拡張し、水源地取引の全国基準化と農地転用審査の強化で“抜け”を塞ぎ、公有化・トラスト・保全協定に税制・寄付制度で資金を通す。

この制度×資金の設計が、日本の土地の開かれた活用守るべきレッドラインの共存を可能にします。

感情的な「買え/買うな」を超えて、どの土地を、どのルールで、どう支えるか——具体へ進みましょう。

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