「恐竜は小惑星直前まで繁栄していた?」—新年代測定が塗り替える終末像

科学

「恐竜は絶滅前、すでに斜陽だったのか」。長年の論争に、新たな反証が出ました。
References:ars TECHNICA

ニューメキシコ州の地層を精密に年代決定した結果、小惑星衝突のわずか30〜40万年前まで、多様な恐竜群集が“元気に”生きていたというのです。

研究はScience誌に掲載され、主要メディアも速報。
“衝突こそ決定打”という見立てが、より強まった格好です。

報道の要点

  • どこで何が見つかった?
    北米・ニューメキシコ州北西部のナアショイビト層(Naashoibito Member)から、アルモサウルス(巨大竜脚類)、ティラノサウルス、角竜・カモノハシ竜など多様な恐竜の化石。
    地層の年代は磁気層序(地磁気の反転記録)と火山性微粒子の同位体年代で絞り込み、衝突の約34〜40万年前と推定。

  • 何が新しい?
    北米西部(特に北方のモンタナ州ヘルクリーク層)に偏ってきた“終末期データ”に、南方の独立した若い層準が加わった。
    地域差を含め恐竜群集は依然として多様で、衰退の兆候は地域一律ではなかったと示唆。

  • 注意点は?
    単一地域に依拠するため、地球規模の一般化は禁物
    ただし年代決定の精度が高い若い化石群が出た意義は大きい、というのが専門家の評価です。

どうやって「直前」と言えるのか

今回の鍵は時間の“物差し”です。

研究チームは、
磁気層序(堆積物に記録された地磁気の向きの履歴)で、地層を国際標準の反転年代表に当てはめ、
層中の火山起源粒子/火山ガラスなどを同位体(放射壊変)で測ることで、絶対年代を与え、
生層序(含まれる化石の組み合わせ)
群集の若さを裏づけました。

その結果、K–Pg境界(6600万年前)に“地質学的瞬間”で迫る若い層から、多様な恐竜が確認されたのです。

これにより、「衝突の何百万年も前から恐竜は減っていた」という従来説に対し、少なくとも北米南部では“直前まで多様”という具体例が示されたことになります。

何が決着し、何が残ったか:長年の衰退論争の現在地

決着に近づいた点

  • “衝突が決定打”であること自体は、広く合意されています。
    衝突後のインパクト・ウィンターが食物網を崩壊させ、非鳥類型恐竜を一掃した、というストーリーです。

  • 今回の結果は、“衝突前からの長期的な弱り”が絶滅の主因という見立てに強い反例を与えます。
    少なくとも北米南部では、群集の活力と地域特異性(エンデミズム)が保たれていた可能性が高まりました。

なお残る論点

  • 地域代表性の欠如
    データは一地点の高精度記録。
    世界の他地域(アジア、南米など)でも同様の“若い”群集が広く確認されるかは未解決です。

  • “見かけの衰退”問題
    終末期に化石記録が拾われにくくなる(サンプリング・ギャップ)ことが衰退の錯覚を生む、とする研究も。
    記録の“薄さ”をどう補正するかが引き続き課題です。

  • 反証的研究の存在
    系統全体の多様性は7600万年前ごろから緩やかに低下していたとする解析も残る。
    地球規模では“局所の繁栄と広域の鈍化”が同時進行していた可能性もあります。

何が繁栄の証拠なのか:群集の中身に注目

報道各紙が強調するのは、“大物”の在籍だけではありません。

  • 巨大竜脚類(アルモサウルス)+大型肉食(ティラノサウルス)+草食の多様ライン(角竜・カモノハシ竜)という機能的に多様な食物網が、直前層でも成立していること。

  • 同時期でも北部(ヘルクリーク)南部(ナアショイビト)群集構成が大きく異なること。

これは地域性が生きていた=“一色に塗りつぶされていない”証左です。

もし遷移末期の疲弊が進んでいれば、少数の“生残型”に画一化しやすい。

ところが今回は対照的な地域像が並立しており、“最後まで生態系はダイナミックだった”ことを示します。

「衝突直前の世界」像が変わると、何が見えてくるか

  1. “もし衝突がなかったら”の反実仮想がより生き生きする
    群集が健全だったなら、恐竜の系統はさらに枝分かれし、哺乳類の大繁栄は遅れたかもしれません。
    新研究は“決定打は外因”であったことを補強します。

  2. 復元の軸足が“地域ごとの終末劇”へ
    北米の一枚絵ではなく、南北の違い・気候帯の違いを反映した複数のラストシーンを描ける。
    パレオアートや展示、ドキュメンタリーの表現もアップデートが必要です。

  3. データギャップの“埋め方”が明確に
    若い層準の精密年代測定×群集解析が効くと分かった。
    今後は南米・アジアのK–Pg直前層で、磁気・火山灰・花粉化石など多重トレーサーを組み合わせる調査が決定打になります。

研究手法の豆知識:なぜ「炭素年代測定」じゃないの?

恐竜時代は数千万年前
炭素14(半減期約5730年)は遠すぎて使えません。

代わりに、
ジルコンなど鉱物に含まれるU–Pb火山ガラスの同位体
地磁気反転のパターン(磁気層序)
微化石・花粉の組み合わせ(生層序)
複合して時間を“掴む”のが定石です。

今回も磁気+同位体+群集の三点測量でK–Pg境界直前を示しました。

これまでの通説との折り合い

  • 衰退派は、気候冷却や草食恐竜の構成変化(例:ハドロサウルス類の優占化)を背景に多様性低下を主張してきました。
    新研究は地域の“例外”を突きつけた形ですが、グローバル平均とローカル多様性が別の顔をしていた可能性も否定できません。
    “どちらか一方”ではなく、スケールによる違いとして統合していくのが現実的です。

  • 一方、化石記録の偏りが“見かけの衰退”を作るという指摘も根強い。
    終末期は海退・地形変化で陸成の保存が悪化し、見つけにくくなっただけかもしれない、という論点です。

まとめ:終末の恐竜は想像以上に生き生きしていた

  • ニューメキシコの若い地層から、衝突34〜40万年前という地質学的に“直前”の恐竜群集が確認
    巨大竜脚類から角竜・カモノハシ竜まで多様で、北部とは構成が異なる=地域性も維持。
    “衰退”の一枚絵に疑義を突きつけました。

  • ただし単一地域ゆえの限界は明確。
    同等の若い層を他大陸でも掘り起こし、磁気・同位体・生層序の三位一体で精査することが次の課題です。

  • いずれにせよ、“衝突が決定打”という理解はより強固に。
    もし衝突がなければ——という想像は、これまで以上に重みを増しました。

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