X上で、「女子学生限定/知的障害がある男性との“ふれあいゲーム・模擬デート・性の学習”」などの文言を掲げたチラシ画像が拡散し、「これは何?」「不適切では」と批判と困惑が広がりました。
拡散の端緒となったポストは11月7日付で、投稿者は驚きを表明しつつ画像を提示。
現時点で主催者名や公式告知の所在、開催の有無は投稿からは確定できないため、本稿では事実関係は未確定として、想定される企画のリスクと適正条件を法・倫理・実務の観点から整理します。
まず押さえるべき前提
- 障害者差別解消法は2024年4月の改正で、事業者の合理的配慮提供が義務化されました。
障害の有無にかかわらず参加者の権利を守り、不当な差別的取扱いをしないことが求められます。 - 企画が教育・研究・実習の一環なら、大学等の倫理審査・指針(対人研究、個人情報、利益相反など)に適合しなければなりません。
- 性・交際を扱う支援では、国内外で包括的性教育や支援付き意思決定(SDM)の枠組みが重視され、当事者の尊厳・自律と安全を両立させることが基本原則です。
どこが問題視されたのか
- ターゲティングの不均衡
「女子学生限定」と「知的障害がある男性」の組み合わせは、ジェンダー役割の固定化や力関係の非対称を想起させ、対象化・性的化の懸念を招きます。
障害当事者を“学習素材”扱いするニュアンスは、差別解消法の趣旨にも反します。
誰の学び/利益を主眼に置くのかが曖昧な点は大きなリスクです。 - 「模擬デート/性の学習」の設計
人と人の親密性や身体性を扱う活動は、当事者本人の意思・同意の成立と撤回可能性、関係者の安全を丁寧に設計する必要があります。
包括的性教育の枠組みでは、権利・同意・安全・境界が中核で、“やらせる/見学する”型ではなく等位の学びで構成します。 - 研究・教育の正当化要件
もし学部授業や研究協力なら、倫理審査の承認番号、目的、手続、リスク、補償、連絡先の明示が欠かせません。
脆弱な立場の参加者を含む研究は、国際的にもより厳格な保護が求められます。
適正な支援・学習にするための最低ライン
A. 目的と便益の対称性
- 当事者と学生双方の学び・利益を明確化(例:当事者の交際スキル・自己決定、学生側の障害理解と支援技法)。
一方通行の観察や体験学習は避ける。
B. 同意(インフォームド・コンセント)
- 当事者・保護者・後見人・支援者に対し、平易な説明資料(やさしい日本語/ピクト)で目的・内容・撤回方法を提示。
同意はいつでも撤回可。
C. 合理的配慮と安全設計
- コミュニケーション支援者の同席、1対1を避けた複数監督、外部に個人情報が漏れない運用、身体接触の基準と緊急停止合図の設定。
D. 倫理審査・透明性
- 大学・機関の倫理審査承認番号、責任者名、相談窓口を告知物に明記。
参加は完全任意で、不参加による不利益なし。
E. カリキュラム準拠
- 包括的性教育(同意/境界/暴力防止/性と権利)の構成に合わせ、ロールプレイは当事者の尊厳中心で設計。
“模擬デート”という語の安易な使用は避け、関係構築スキルに言い換える。
事実確認の手順
- 公式一次情報:
主催者・施設・大学の公式サイト/授業要項/プレスを確認し、日時・対象・監督体制・倫理審査の有無を照合。 - 設計資料:
企画書・リスクアセスメント・同意書式の開示可否を打診。 - 体制:
有資格者(社会福祉士・臨床心理士ほか)の関与、苦情対応窓口の設置。 - 参加者保護:
撮影・投稿禁止や匿名化ルール、トラブル時の補償。 - 差別解消法適合:
募集要件が不当な差別・固定化を含まないか、合理的配慮が設計されているかを点検。
女子学生限定は本当に必要条件か
企画の教育目的がジェンダー別の学習で合理的に正当化できるのかは肝心です。
例えば、性暴力防止教育の一環として女性の安心確保を掲げる場合でも、当事者男性を相手役に置く設計は、役割固定とステレオタイプ強化を招きやすい。
混合チームやプロのファシリテーターを介した等位的ロールプレイなど、代替案はありえます。
実務に落とすための提案
- 名称変更:
刺激的な用語(「模擬デート」「性の学習」)は「関係づくりのスキルトレーニング」「合意と境界のワーク」へ。 - 共同設計:
当事者団体と共同で企画書をレビュー、当事者の便益を可視化。 - 可視化する安全:
レッドカード(中止合図)、観察者の行動規範、録画・投稿の全面禁止。 - 事後フォロー:
感情面のデブリーフィング、相談窓口の案内、苦情処理のSLAを明記。 - 第三者評価:
外部倫理アドバイザーによる監査的レビューを年次で実施。
まとめ
今回の拡散ポスターは、表現と設計のまずさが重なり、差別解消法の時代感覚とズレた印象を与えました。
誰のための学びか、当事者の尊厳と安全が守られているか、倫理審査と透明性は満たされているか——この3点を満たさない取り組みは、善意でも炎上します。
一方で、知的障害のある人の恋愛・性・関係スキル支援は社会に不可欠です。
包括的性教育×支援付き意思決定の枠組みで、等位で双方向の学びにデザインし直すこと。
それが、当事者の自己決定を最大化し、学生にとっても本物の学習価値を生む最短ルートです。



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