10月20日夜、自民党の高市早苗総裁と日本維新の会の吉村洋文代表が、連立政権の樹立で合意し合意文書に署名しました。
首相指名選挙では維新が高市氏に投票する方針で、新体制が動き出します。
一方で、維新は当面「閣外協力」として入閣は見送る構え。
政権与党の新しい力学が生まれます。
衆院では自民+維新で231議席と報じられ、単独過半数(233)にわずかに届かないため、他勢力の部分的協力も視野に入れた運営になりそうです。
合意文書の骨子:何がすぐに実行されるか
公開された合意文書を読むと、当面の「可決・実行フェーズ」と、中長期の制度設計に分かれています。
まず目を引くのは以下の即応パッケージです。
- ガソリン税の暫定税率廃止法案を臨時国会中に成立へ。
- 物価対策の補正予算を臨時国会で成立。
- インフレ対応型の税制へ移行
(基礎控除の見直し、給付付き税額控除の制度設計を年内目途)。 - 飲食料品の消費税を2年間、課税対象外にする選択肢を法制化検討
(“実施”ではなく「視野に」入れた検討段階)。 - 一律現金給付は行わない。
これらは「物価・実質可処分所得」への直接的テコ入れです。
特に消費税の食品“ゼロ税率化に近い”検討は生活実感に直結する一方、財源や設計の難度が非常に高く、修正や段階導入の可能性が高いと見ます。
社会保障は、“年齢に依らない応能負担”“第3号被保険者の見直し”“中医協改革”“医療機関の営利事業の在り方見直し”等、給付と負担の配列替えに踏み込みます。
高齢化とインフレの同時進行下で、保険者統合やデータ基盤整備(医療・介護の全国統合プラットフォーム)も盛り込まれ、2026年度(令和8年度)にかけて制度設計→順次実行というロードマップです。
教育は高校無償化と小学校給食の無償化を2026年4月開始で制度確定へ。
科学技術は科研費の大幅拡充を掲げ、人口政策では政府内に「人口減少対策本部(仮称)」を立ち上げ。
外国人政策は「ルールや法律を守れない場合は厳格対応」の方針を明記し、日本版CFIUS(対日外国投資委員会)創設や外国資本による土地取得規制の強化も2026年通常国会で法案提出を目指す、と相当踏み込んだ内容です。
安全保障・外交では、戦略三文書の前倒し改定、スタンド・オフ能力の整備加速、長射程ミサイルを搭載する次世代VLS潜水艦の保有検討といった装備面に加え、国家情報局創設や対外情報庁の設置、スパイ防止関連法制を含むインテリジェンス機能の強化を打ち出しています。
統治機構改革は、副首都構想(首都機能のバックアップ)を臨時国会で協議体設置→2026年通常国会で法案成立を目指すと明記。
政治改革では、企業・団体献金の扱いを第三者委員会を交え、高市総裁の任期中に結論を出すとしました。
衆院議員定数の1割削減は臨時国会に議員立法を提出し成立を目指すと、最も分かりやすい“目に見える改革”の旗を立てています。
政権運営:誰が、どこでブレーキを踏むのか
維新は当面入閣せず、閣外から政策合意の履行を迫るという立ち位置です。
つまり、閣内決定=自民の責任、国会戦略=自民+維新の共同責任という二層構造。
法案ごとに賛否や修正の“落とし所”を詰める実務協議体が、実質の意思決定ボードになります。
閣外協力の利点は「看板政策の実現圧力を高めつつ、内閣不祥事の“同罪化”を避ける」こと。
反面、合意事項の実装速度が落ちれば、「離脱カード」がチラつき、政権の安定性は季節風に左右されます。
また、衆院231の合計は“あと2”に届かないため、法案や人事で国民民主や無所属の一部を上積みする“可変的多数”が前提。
こと憲法関連では両院でのハードルがさらに高く、条文起草協議会の設置~審査会の常設化など手続きの“地固め”から入っていることに、現実感がにじみます。
経済・家計へのインパクト:即効性と持続性の二兎
ガソリン税の暫定税率廃止は即効性があり、物流・農業・漁業などコスト高に直撃する燃料価格を和らげます。
一方、飲食料品の非課税化(2年)は家計支援として強力ですが、消費税は地方財源や社会保障財源とも連動するため、自治体配分や他税・歳出の再設計が不可避です。
短期は補正・特例で乗り切れても、中期は「いつ、どうやって正常化するか」をセットで示さなければ、市場の不確実性を高めます。
インフレ対応としての給付付き税額控除はターゲティング精度が高い反面、マイナンバー・所得把握の運用設計が肝。
ここは“スピードと制度品質”の両立が試されます。
社会保障の再設計:年齢主義から応能主義へ
中核は「年齢に依らない公平な負担」へのシフトです。
薬剤自己負担(OTC類似薬を含む)の見直し、第三号被保険者制度の整理、保険者統合、医療データ基盤の全国統合――いずれも既得権との調整が難所ですが、“現役世代の保険料率を引き下げる”という明快な目標を掲げたのは政策ドリブンの象徴。
中医協改革や診療報酬体系の抜本見直しにまで踏み込むため、医療界の合意形成が成否を分けます。
外交・安保・インテリジェンス:制度と装備の同時強化
装備面(長射程ミサイル、VLS潜水艦)に加え、国家情報局/対外情報庁/スパイ防止関連法制など、法制度と組織を束にした“同時強化”が骨格です。
装備は量と維持の問題に帰着しやすい一方、情報機能は人材養成・横断運用まで含む長期プロジェクト。
省庁横断の人材育成機関を設けると明記したのは、掛け声倒れにならないための最低限の歯止めです。
外国人・人口政策:受入れの「量」と「質」を同時に設計
量的マネジメント(数値目標・基本方針の明記)とルール逸脱への厳格対応を並記し、人口戦略の一体運用を打ち出しました。
これに、日本版CFIUSや土地取得規制の強化が重なる構図。
労働市場の需給、地域社会の統合コスト、投資の萎縮リスク――複数のトレードオフが避けられないため、KPIを公表しPDCAを回す政治が欠かせません。
政治改革:定数削減はのぼり旗、献金ルールは分水嶺
有権者に最もわかりやすいのが衆院定数1割削減。
臨時国会中に議員立法を提出し成立を目指すと明記されました。
区割り、比例削減、拘束名簿の扱い、合区回避の是非――実務は想像以上に複雑です。
筋の悪い再配分は地方の政治的空白や候補者不足を招きかねません。
一方、企業・団体献金は、自民(透明化重視)と維新(完全廃止)が隔たりを残したまま第三者委員会+協議体で結論先送り。
ここは与党の自浄能力を測る踏み絵で、スキャンダルの火種となり得ます。
今後1年の現実的なシナリオ
1)短距離走:臨時国会(~年内)
燃料・物価対策の補正成立、ガソリン税の暫定税率廃止法案の可決が最優先。
定数削減案は「提出→審議入り」まで進めば及第点。
企業・団体献金は協議体設置と論点整理にとどまる見込み。
衆院231の力学上、野党横断の個別乗り合いが増えます。
2)中距離走:通常国会(2026年)
高校・給食無償化の制度確定と実施準備。
社会保障の骨子合意、人口戦略、CFIUS法案や土地規制の提出・審議。
副首都関連の法案取りまとめ。
安保・情報機能の法整備に着手し、装備調達の中期見通しを提示。
3)長距離走:改憲手続きの“土台づくり”
憲法9条や緊急事態条項の起草協議は動き出すものの、国会発議~国民投票は政治カレンダーと世論の波に強く依存。
まずは審査会体制の常設化やCM規制など、プロセス法の整備が先行します。
まとめ
この合意は、“耳当たりの良いメニュー”と“痛みを伴う制度改革”が一つの紙に同居しています。
家計支援で即効性を示しつつ、社会保障・税・安全保障・インテリジェンス・統治機構の長期再設計に踏み込む——そのためには、KPIの公開・進捗管理・修正の透明性が不可欠です。
維新が閣外から“実行監査”の役割を果たし、自民が政治的コストを引き受ける——この分業が機能する限り、改革ドライブは続きます。
ただし、財源設計や選挙制度いじりは反発も大きい。
最初の100日に「何をどこまで通すか」で、この政権の推進力と寿命がおおむね決まるはずです。



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