10月22日、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロス(東京・品川区)に対し、警視庁が弁護士法違反(非弁行為・非弁提携)の疑いで家宅捜索を実施したと報じられました。
報道によれば、同社が退職希望者を弁護士に違法にあっせんし、見返りとして紹介料を受け取っていた疑いがあるほか、退職をめぐる“交渉”行為なども弁護士法違反に当たる可能性があるとみて捜査が進められています。
現時点で容疑はあくまで“疑い”であり、事実認定や法的評価はこれからです。
何が問題視されているのか:2つの非弁
今回焦点となるのは弁護士法が禁じる非弁行為と非弁提携です。
【非弁行為(弁護士法72条)】
弁護士以外の者が、報酬目的で法律事務を取り扱う(代理・和解等の交渉、法律判断を要する主張・起案)ことを禁じる規定。
退職代行で「未払い残業代の請求交渉」「退職金の増額交渉」「法的根拠を示した主張・示談」に踏み込めば、非弁に該当します。
一方、「辞めます」という意思を“使者”として伝えるだけなら原則違法ではありません(境界は文言・やり取りの実態で判断)。
【非弁提携(弁護士法27条ほか・職務基本規程13条等)】
非弁業者が事件を弁護士にあっせんし、紹介料などの利益を受け取る関係を禁じるもの。
名称を「広告料」「コンサル料」と変えても実質で判断され、謝礼の授受は原則アウトです。
報道は、アルバトロスが弁護士への違法あっせんと紹介料受領の疑い、さらに利用者の会社側と“交渉”した可能性に言及しています。
事実であれば、両輪の非弁が問題となり得ます。
退職代行のグレーはどこにある?
退職は民法上の一身専属的意思表示で、無期雇用なら原則2週間の予告で辞職可能(特約や有期は別途要件)。
ここで第三者が“使者”として退職意思を伝えるのは、事務連絡の範疇であれば非弁ではありません。
問題は、その伝達が「交渉」や「法的主張」へと一歩踏み込む瞬間です。
例えば——
- OKな例(一般論):
「依頼人は◯月◯日付で退職します。書類は郵送で受領します。」(純粋な意思伝達) - NGに傾く例(一般論):
「有給は法的に全消化できるはずです。◯日までの買い上げに応じてください。応じない場合は…」(法的主張・交渉)
東京弁護士会の解説も、残業代の算定や支払いを“交渉で勝ち取る”行為は非弁と明示しています。
では、労働組合や弁護士の退職代行は?
- 労働組合:
団体交渉権に基づき、組合員の労働条件や未払い賃金等について交渉の合法性が認められ得る(組織・事件性によって射程の議論はあります)。
“交渉”が必要な案件は、ユニオン型や弁護士が適します。 - 弁護士:
当然ながら交渉・示談・請求・起案まで可能。
法的紛争を伴う退職(未払い・損害賠償・競業・貸与品返還条件など)は弁護士案件です。
消費者としての見極め方チェックリスト
- メニュー表示:
サイトに「交渉はしません」「意思伝達のみ」など非弁回避の明記があるか。 - 言い回し:
「交渉します」「取り返します」といった表現があれば要警戒。 - 弁護士・組合の関与:
提携・紹介料の授受を匂わせていないか。
謝礼の授受は規程違反です。 - トラブル想定:
未払い・損害賠償・有給・退職金・競業制限など法的論点が出そうなら最初から弁護士へ。 - 記録と透明性:
やり取りは文面化し、ログ保全を。
支払い条件・返金規約も確認。
業界へのインパクト:量から適法運用へ
退職代行は、パワハラ・長時間労働等の背景から若年層を中心に市民権を得てきましたが、市場拡大とともに“交渉ビジネス化”の誘惑が高まる。
今回の捜査は、(A) 非弁行為の抑止と(B) 非弁提携の実質規制を同時に強化する可能性が高く、業界は「連絡代行の純化」か「弁護士・組合型への再編」の二極へ向かうでしょう。
一方で、“辞めたいと言えない”構造の是正は、企業側の人事運用にも突きつけられます。
早期離職の予兆検知・面談体制・退職プロセスの非対立化は、人材獲得競争の観点からも不可欠です。
よくあるQ&A
- 退職の意思は“第三者伝達”で有効?
原則有効。ただし伝達の内容が交渉に及べば非弁リスク。
有期雇用や競業・守秘の特約は別問題。 - 利用者が処罰される?
多くの解説は利用者が直接処罰対象となることは通常ないとしますが、紛争激化や証拠化の不備は本人不利。
最初から適切な窓口(弁護士・組合)に。
まとめ
- 事実関係:
10月22日、モームリ運営のアルバトロスを警視庁が家宅捜索。
弁護士への違法あっせんと紹介料受領の疑い、交渉行為の疑いにも言及。
結論は未確定。 - 法の要点:
非弁行為=交渉・法律判断の伴う代理はNG/非弁提携=紹介料等の授受もNG。
“使者としての連絡”はOKだが、文脈次第で越境。 - 選び方:
“交渉しません”の明示、料金の透明性、ログ保全。
法的論点が濃厚なら弁護士・組合へ。 - 業界の行方:
適法運用への純化と専門職連携の再設計が加速。
企業側も円滑な退職制度を整える時期です。
「辞める自由」を守るのは、法と手順の正しい使い方です。
利用者・事業者・企業の各プレーヤーが“どこからが交渉か”を正確に理解し、透明なルールで動くこと。
今回の一件は、日本の“退職インフラ”をより健全にアップデートするための通過点と言えるでしょう。



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