11月1日、共同通信は鹿児島・屋久島で撮影された「子ガメをくわえるタヌキ」写真の配信を取り消しました。
写真は保護団体から提供されたもので、鮮明化の目的で生成AIにより加工されていたことが判明。
共同通信は「報道用の写真・グラフィックス・動画・音声の作成に生成AIを原則用いない」とする社内指針に反すると判断しました。
話題はXでも拡散し、「AI加工の可否」「表示義務」「検証フロー」が一気に注目を浴びています。
事実関係:何が起き、どこが問題だったのか
共同通信が10月20日に配信したのは、監視カメラ動画から切り出した静止画と、生成AIで“鮮明化”された画像。
のちにAI加工の事実が確認され、1枚の写真配信を取り消しました。
本文記事自体の骨子(タヌキが子ガメを捕食している実態)は、元動画のフレームで裏づけ可能とされていますが、“加工写真”を報道用に流したことが問題視されました。
タイムラインの整理
- 8月:
屋久島・永田浜で監視カメラが“タヌキが子ガメをくわえる”様子を記録。 - 10月20日:
共同通信が写真(提供元:屋久島うみがめ館)とともに配信。 - 11月1日:
AI加工が判明し、社内指針違反として配信取消を発表。 - 11月2〜3日:
全国紙・地方紙・通信・ポータル各社が相次ぎ続報。
「どこまでが事実?」:現象と写真を分けて考える
現象(子ガメ捕食の事実)は、監視カメラの動画フレームで示されます。
一方で、報道用に配られた“鮮明化画像”は、生成AIでの加工が入っており、事実を正確に伝えるべき報道写真として不適切と判断された、という整理です。
つまり今回は自然現象の否定ではなく、写真表現の基準逸脱が焦点でした。
国際基準と突き合わせる:AP(Associated Press)の例
APは2023年に生成AIの扱いを明文化。
「写真・動画・音声の要素をAIで足し引きしない」「AI生成画像は、それ自体がニュースの主題のときに限り、明示付きで使用可」としています。
生成AIは“取材メモ生成”など非公開の補助用途に限り得るが、掲載物には使わないのが基本線です。
今回の共同通信の判断は、こうした国際標準に整合します。
日本の現状:ガイドラインの実装と課題
国内でも社内指針や業界声明が整備されつつあります。
ただ、提供元の申告に依存したままでは検知が難しい。
メタデータ確認や来歴証明の標準化(C2PA/コンテンツ認証)を編集工程に組み込むことが、次の一手になります。
ソニーは報道機関向けにC2PA対応の“真正性”カメラや検証サイトの提供を進めており、撮影~編集~配信の来歴を一貫記録する潮流が広がっています。
「鮮明化」と生成の境界はどこか
従来からノイズ低減・露出補正・トリミング等は許されてきました。
しかし被写体の形状やディテールを“推測補完”して“見た目”を作り込む処理は、現実の記録を逸脱しやすい。
ディフュージョンやGANによる補完は、像の“真偽”を混同させる危険が大きく、報道写真では厳格な線引きが要請されます。
今回のケースは「より伝わる」ための善意の鮮明化が、“生成”的加工に踏み込み線を越えた可能性が高い、と読めます。
もう一つの論点:AI加工が本件そのものへの不信を招く
X上では「加工=捏造」という短絡に結びつける反応も見られました。
これが最大の副作用です。
一部の不適切な表現が、現象全体の信頼まで損なう。
ゆえに編集部側には「本文の事実」「元動画フレーム」「加工の有無」の三点を分けて公表する“説明責任”があると言えます。
再発防止の実務チェックリスト
- 提供時の申告義務
提供元に「AI・高度補正の有無」を書面申告させ、再委託先や使用ツールまで記録。
虚偽申告には掲載停止等のペナルティ規定。 - 来歴(プロヴナンス)検査の標準化
C2PA/電子署名+電子透かし+フィンガープリントの三層で真偽検証。
C2PA対応カメラの導入や検証サイトの運用を社内ルールに組み込み。 - 編集工程の“二重承認”
AI関与疑義のある画像はデスク+ビジュアル編集の二重承認。
「掲載面」「見出し」「キャプション」に加工の有無を明示。 - 訂正・取消の動線整備
Webでは“訂正・取消”の専用ページを用意し、元記事から相互リンク。
SNSカードも差し替えを徹底。
野生生物レポートとしての意味も残る
タヌキ(外来種/地域事情による扱い差あり)によるウミガメ孵化仔の捕食問題は、生態系保全の観点で放置できません。
今回、写真表現の瑕疵があったからといって、捕食という現象まで否定されるべきではありません。
むしろ“科学的根拠(動画や記録)”と“報道写真の表現規範”を切り分け、両者を強固にすることが重要です。
まとめ
今回の一件は、「より伝わる画像」を求める善意が報道の線を越える危うさを可視化しました。
生成AIの利便と報道写真の真正性はトレードオフに見えますが、来歴の可視化(C2PA)、加工の明示、訂正・取消の透明化を積み上げれば、「疑念を先回りして説明する報道」は可能です。
“速さ”の競争から“検証と説明”の競争へ。
信頼の回復はそこから始まります。



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