報道の要点
英・ロンドン西部のキーウ在住の女性が、出勤途中にリッチモンド駅そばの道路排水口へコーヒーの残りを流したところ、治安執行員3人に止められ、環境保護法(Environmental Protection Act 1990)に基づく150ポンドの固定罰金(FPN)を科されました。
References:Mirror
女性は「違法だとは思わなかった」とショックを受け、のちに区が審査の上で罰金を取り消しました。
出来事は10月10日、罰金取消は10月22日。
リッチモンド区は当初「手続に則った執行」と説明しつつ、再検討で撤回に転じています。
何が問題になったのか:法的枠組み
執行根拠は、環境保護法1990年33条(Section 33)。
同条は土地や水を汚染し得る方法での廃棄行為を禁じ、違反には起訴の代わりにFPN(固定罰金)を提示できる仕組みが整っています。
英国ではごみの投棄(fly-tipping)や不適切排出に対し、地方自治体が即時罰金で抑止を図る運用が一般化。
上限額の引き上げなど、中央政府も近年テコ入れを続けています。
「排水口に液体=なぜダメ?」——“Only rain down the drain”
日本人旅行者には直感的に伝わりにくい点ですが、英国の道路側溝(surface water drain)は雨水専用として河川に直接つながる場合が多いのが前提です。
つまり排水口に流す=川に直接流すに近いイメージで、洗剤・油・塗料はもちろん、食品残さを含む濃い液体も水質影響の観点から問題視されます。
水業界や環境団体は“Only rain down the drain(雨だけを排水口へ)”の標語で広く啓発してきました。
それでも批判が起きた理由:比例性と情報提供
女性は「看板や注意表示がない」「近くのごみ箱に捨てろと言われた」と疑問を呈しています。
自治体側はボディカメラ映像を確認し「執行は適正」と主張しましたが、その後取り消し。
背景には、行為の軽微さに対する罰の重さ(比例原則)、市民への事前周知(サイン・表示・キャンペーン露出)の不足といった論点が横たわります。
“知らなかったでは済まない”が原則でも、“知らない人が一人も出ない設計”は行政の課題です。
タイムライン整理
- 10月10日:
女性が可搬カップの残りを道路排水口に捨て、治安執行員3人からFPN(150ポンド)を提示される。
早期納付なら100ポンドに割引。 - 当初:
区は「方針通り」と説明。
女性は過剰執行と情報不足を訴え、正式に異議申立て。 - 10月22日:
区が審査の上で取り消しを通知。
水環境保護の重要性を強調しつつ、周知の在り方にも言及。
英国の「環境FPN」運用の現在地
英国では、ポイ捨て(littering)が150ポンド、不法投棄(fly-tipping)は自治体によって数百〜千ポンド級のFPNが標準化しています。
執行官の常時巡回とボディカム、早期納付の減額制度がセットになり、「小さな違反の可視化」で抑止を図る仕組みです。
ただし軽微な行為への“ゼロトレランス”が市民感情と軋轢を生む事例も散見され、説明責任やサイン設置が足りないと批判されがちです。
液体の扱いは「どこへ流すか」がすべて
家庭や店舗のシンク=汚水(foul)側は下水処理場へつながりますが、道路排水=雨水(surface)側は未処理のまま河川へという設計が一般的。
「少量だから無害」という判断は累積影響や場所依存性を見落とします。
英国政府のガイダンスも、汚染の疑いがある液体は雨水系へ流さず、適切な経路でと明記しています。
比例性(proportionality)と行動設計
今回の取り消し判断は、法の趣旨(河川保護)を損なわず、市民の「意図せぬ違反」に配慮する実務的落としどころと言えます。
今後、自治体が取り得る現実解は次の3点でしょう。
- 表示の徹底:
バス停・ゴミ箱・側溝に「Only rain down the drain」等の視覚的サインを併設。 - 段階的執行:
初回は口頭警告や啓発チラシ、悪質・反復でFPNという階層化。 - 代替手段の提示:
液体ごみの“正しい捨て方”を明記(例:屋内の汚水系、店舗の回収、可燃ごみへの吸収材利用など)。
旅行者・在住者の実務メモ
- 道路排水口は“雨水専用”と理解する(雨以外NG)。
- 飲み物の残りは屋内のシンクか、吸収させてから廃棄。
公共のゴミ箱に液体をそのままは漏れ・臭気の原因にも。 - 万一FPNを受けたら、発行根拠条文・日時・場所・説明内容を控え、早期納付割引の可否や異議申立て手続を確認する。
日本への示唆:都市の見えない境界を可視化する
日本でも雨水と汚水の分流が進み、側溝への誤排出は河川の水質悪化につながり得ます。
「やってはいけない理由」を具体化し、視覚情報(ドレンアートやピクト)で伝える工夫は、罰則より効く抑止になり得ます。
住民×事業者×行政でルールと代替の“セット提示”ができれば、過剰取締りの摩擦を減らしつつ環境保全を進められるはずです。
まとめ
- 事実:
道路排水口へのコーヒー排出で150ポンドFPN→区が審査後に取り消し。
水環境保護の趣旨は維持しつつ、比例性と周知が問われた。 - 背景:
英国は環境FPNを広く運用。
“Only rain down the drain”の思想は強いが、情報提供の不足は紛争の種になる。 - 教訓:
ルールの可視化×段階的執行×代替手段の提示。
知らない人を生まない設計こそが、罰の妥当性と合意形成を支える。
小さな一杯の液体でも、流れる先は川かもしれない。
“見えない境界”を見える化することから、都市のマナーと環境は両立できるのだと思います。



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