「原因不明の鼻血が20日以上つづいた男性、鼻腔内から生きたヒルが見つかる」——そんな症例を Ars Technica が紹介し話題になりました。
References:Ars Technica
異物感や少量の鼻血がダラダラ続くとき、ヒル寄生という珍しい原因が隠れていることがあります。
本稿では、医学論文の症例記述を手がかりに、なぜ気づきにくいのか/どう診断・除去するのか/何に気をつければよいのかを深掘りします。
何が起きたのか:20日間の鼻出血、犯人は光を嫌うヒル
2024年の医学誌 Medicine に掲載された症例では、55歳男性が20日以上の反復性鼻出血で受診。
内視鏡で確認すると、左側嗅裂付近に生きたヒルが吸着しており、血管用の鉗子で摘出(約8cm)。
その後は鼻出血が消失しました。
ヒルは光を嫌う(photophobic)ため鼻腔の奥に潜み、前鼻鏡の通常診察では見逃されやすいことも報告されています。
なぜ鼻血が続くのか
ヒルは吸血時にヒルジン(hirudin)などの抗凝固物質を分泌し、血が固まらない状態をつくります。
そのため強い出血でなくても、じわじわ長引く鼻血になりやすいのが特徴です。
どこから入る?——顔を洗った水が盲点
鼻腔内への侵入は、多くの報告で未処理の淡水(沢・泉・池)との接触がきっかけ。
水を飲む/顔を洗う/遊泳の最中に幼体が鼻孔から入り、奥で成長して気づかれにくい——というパターンが典型です。
数週間後に鼻血や異物感が出て受診、内視鏡で発見される例が繰り返し報告されています。
診断と治療:まず疑う、そして内視鏡で一発除去
- 疑う条件:
① 屋外の淡水との接触歴(とくに未処理水)、②反復する少量の鼻出血、③鼻奥のむずむず感・違和感、④通常の止血・軟膏で改善しない。
この条件が揃えば、鼻内視鏡での確認が近道です。 - 除去の実際:
内視鏡下で吸着部を鉗子で確実に把持し、ゆっくり持続的に牽引して一度で取り切るのが基本。
体が弾性に富むため強引に引くとちぎれて残存しやすく、丁寧な動作が推奨されます。
必要に応じて2%リドカインの表面麻酔で動きを鈍らせ、ガーゼやゼラチンスポンジで止血・保護します。
ポイント:ヒルは暗所を好み、光や刺激でさらに奥へ逃げるため、準備(鉗子・吸引)を整えてから一気にがセオリーです。
似た症例はどれくらい?
珍しいとはいえ、アジア各地を中心に鼻腔ヒルの症例報告は蓄積しています。
1980〜2000年代の複数症例のまとめでも、初期症状はほぼ“鼻出血”で、発症の数週間〜数か月前に池や山間の沢での接触が確認されています。
リスクは鼻だけじゃない
ヒルは鼻だけでなく、口腔・咽頭・消化管・泌尿生殖器などにも侵入しうるため、部位に応じて吐血・黒色便・血尿・咽頭違和感などの症状で見つかることもあります。
長期化すると貧血に至る報告もあり、「謎の出血が続く+淡水接触歴」は要注意サインです。
予防とセルフケア:渓流・沢・泉でやりがちなことに注意
- 未処理の淡水で顔を洗わない/飲まない。
- アウトドア後に鼻出血が続いたら早めに耳鼻科へ。
- ティッシュや綿棒で奥までいじらない(刺激で奥へ逃げる可能性)。
- 止血は“圧迫”が基本。通常の鼻出血なら小鼻をつまんで10分が第一選択。
改善がなければ受診。
上記は一般的な対処で、症状が長引く、反復する、異物感が強いときは自己判断せず医療機関で内視鏡を受けてください。(※医療助言ではなく一般情報です)
余談:ヒルと医療の長い関係
ヒルは古来から瀉血療法や再建外科のうっ血軽減に医療用 Hirudoとして使われ、ヒルジンは抗凝固薬の研究にも影響を与えました。
一方で野生のヒルは衛生管理がなく、寄生・感染のリスクを伴います。
“治療用”と“野生のヒル”は別物であることは強調しておきたい点です。
まとめ:「鼻血+アウトドア歴」なら、ヒルも鑑別に
- 長引く少量の鼻血は、つい“乾燥・こすりすぎ”で片づけがち。
- しかし未処理の淡水に触れた後なら、鼻腔ヒルはまれだが現実的な鑑別です。
- 診断は鼻内視鏡、治療は内視鏡下の一括除去+止血保護。
その後は再発なしが一般的。
今回の報道は、「めったにないが、知っていれば素早く対処できる」タイプの健康知識。
これから渓流や山の湧水に触れる機会があるなら、顔を洗う・水を飲むといった何気ない行動こそ安全最優先で。
万が一、鼻血が“妙に続く”と感じたら、早めに耳鼻科での内視鏡を検討しましょう。



コメント