中国EVの「海外投資1,430億ドル」時代——どこへ・なぜ・誰が得をするのか

海外

Rest of Worldの調べでは、2014〜2025年の中国勢によるEV・電池の対外投資は累計約1,430億ドル
References:Rest of World

CATLやBYDを筆頭に、欧州・メキシコ・東南アジア工場・合弁・販売網が一斉に立ち上がっています

背景には米欧の関税・補助金見直し、そして現地化によるリスク分散があります。

本稿では、最新データを手がかりに地政学×産業構造×日本への示唆を立体的に整理します。

1) どこに投資しているのか:地図でみるホットスポット

  • 欧州
    ハブはドイツ/ハンガリー/スペイン
    CATLは欧州で大型の電池計画を進め、スペインでは約40億ユーロ規模の工場建設のため2,000人規模の中国人技能者を投入する報道も。
    技術移転の線引きを巡る議論が続きます。

  • 東南アジア
    タイにBYDが年産15万台の工場を開所。
    ASEAN輸出拠点としてPHEVとBEVの両にらみで展開。

  • 北米近接(メキシコ)
    北米関税回避や現地調達比率の要件を意識し、サプライチェーンをメキシコで組む動きが拡大。
    ただし対中制裁の“迂回輸入”監視強化が進み、政策リスクは高止まり。

2) それでも輸出は強い:2025年の実弾データ

2025年1〜9月の中国EV輸出は約480億ドルに達し、輸出先は200超

地域別では欧州が約半分、アジアが約2割、中東・ラ米・オセアニアも拡大

北米のみ減速(対立激化が主因)というコントラストです。

3) なぜ「海外直接投資(FDI)+輸出」を同時に走らせるのか

  1. 関税・是正関税のヘッジ
    EUの対中EV関税や、米国の追加関税に対応し、現地生産/第三国生産市場アクセスを確保。

  2. 政策の風向き変化
    中国の次期5か年計画でEVが戦略産業リストから外れるとの観測も出ており、外需・外地への軸足が一段と重要に。
    国内の補助金縮小と産業再編観測が、輸出・FDIの“両建て”を後押し

  3. バリューチェーンの掌握
    電池(LFP/NMC)→車体→販売金融まで垂直統合する中国勢は、物流コストと為替のブレを現地化で吸収。
    IEAも中国が世界EV生産の7割超を担う現実を示す中、海外での電池拠点を増やして“供給ショック”を平準化

4) 電動化の幅:BEVだけでなくPHEV・HEVも武器

2025年は中国のハイブリッド輸出が前年同期比3倍以上というデータも。

BEVに厳しい関税・補助要件の国や、充電インフラが未整備の市場向けにPHEV/HEVで先行し、後からBEVを差し込む二段構えが見えてきます。

5) 受け入れ国の狙いと不安

  • 雇用・投資を呼び込む
    欧州やASEANでは雇用・税収・技術学習の期待が大きい。
    サプライチェーンの誘致競争も激化。

  • 懸念は“過度依存”
    基幹技術が本国に残ること、補助金頼みの生産が逆回転した際の雇用リスク、産業安全保障の観点が論点に。
    MERICSは中国の過剰生産・ゆがみがEU産業を圧迫すると警鐘。

6) 日本への示唆:三つの現実解

① 欧州・ASEANで“連立政権”的アライアンス
電池・材料・モジュールの日欧連携で、現地調達比率と技術自律を高める
タイのようなEV優遇税制×サプライヤーパークでは、日本サプライヤーの再編ジョインが商機。

② メキシコ・米加向け“ルール適合”の設計
原産地規則や関税枠を踏まえ、中国由来比率がボトルネックになりやすい部材(セル、正極材、BMS)を段階置換。
“迂回”と疑われない透明なサプライ図づくりが必須。

③ プロダクトの“中速ギア”を磨く
IEAが示す通り、世界の電動化は価格帯の多様化で進む。
航続レンジ・充電性能・価格の最適点を市場ごとに見つけ、PHEV/BEVのポートフォリオで攻める。
“全部BEV”の一斉投下は関税・補助の変動に弱い。

7) 次の一手を読む:政策・市場のトレンド

  • 補助金から“選別”へ
    中国の国内支援縮小観測は、過剰企業の整理輸出価格の現実化を促す可能性。
    欧州は補助金と関税の二段ロケットで国内産業の時間を稼ぐ。

  • WTOの火種
    中国はインドのEV優遇を巡るWTO提訴に踏み切り、クリーンテックの通商ルールが次の主戦場に。

  • 商用EVの波
    中国は大型トラックの電動化でも先行。
    商用×都市物流は各国の排出規制に直結するため、中国勢の受注→現地化が加速しうる。

8) 勝ち筋チェックリスト(企業向け)

  • 市場×関税×補助の三面評価(EU/ASEAN/北米での関税・地産化要件を年次更新)

  • 電池の現地化ロードマップセル→モジュール→パック→リサイクルの順で段階投資)

  • PHEV/HEVの橋渡し戦略充電網未整備市場での先兵)

  • 調達のトレーサビリティ原産地証明とサプライ網の透明化で“迂回”疑義を回避)

  • 人材・技能移転の設計現地比率のKPI監査可能な技術移転の枠組み)

まとめ:輸出×現地化の二刀流が常態化

中国EVは、輸出の量現地化の深さを同時に高める“二刀流”で世界に食い込みつつあります。

米欧の関税や中国内の政策転換は不確実性を高めますが、PHEVを含む柔軟な製品構成と電池サプライチェーンの現地化で攻め筋を増やしているのが実相。

日本にとっての打ち手は、欧州・ASEANでの連携強化、北米規則への適合設計、そしてミドル価格帯の磨き込み

地政学を“前提条件”として織り込み、技術×制度×サプライを束ねた実装力が、次の5年の勝敗を分けます。

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