Ars Technicaは、パネル価格の下落で世界中の太陽光発電が“空前のブーム”にある一方、米国だけ伸び悩みが目立つと報じた。
References:Ars Technica
背景には送電網への接続(インターコネクション)渋滞、機器不足、そして政策の向かい風が重なっている。
本稿では最新統計と制度面の材料を突き合わせ、なぜ米国だけ足踏みするのか、そしてグローバル市場の構造変化を読み解く。
世界は量でも価格でも歴史的局面
- 年600GW超の新設:
IEA PVPS「Trends 2025」によれば、2024年の年間導入は601GW(23年の465GWから加速)。
累計容量は2.2TW超となり、2025年には世界電力の1割以上を太陽光が賄う規模に達する見込みだ。
地域別では中国が約360GWで独走、欧州70GW、米国47GW、インド32GWと続く。 - 価格の“底抜け”:
2024年は過剰供給の影響で中国のモジュール平均価格が0.09ドル/Wを下回る水準まで低下。
需要は刺激される一方、製造業の収益性と産業の健全性には課題も残す。 - 2025年上期も加速:
気候シンクタンクの集計では、2025年上期の世界新設が前年比+64%との推計も出ており、“ソーラー主導”の再エネ増強が続いている。
なのに、なぜ米国は伸び悩むのか
最大の病巣:送電網接続の大渋滞
米国の系統接続待ち行列(インターコネクション・キュー)には、約2,600GWの発電・蓄電案件が滞留。
接続影響評価、アップグレード費用負担、法的異議申立て等で年単位の遅延が常態化している。
FERCはOrder 2023(群勉強化)やOrder 1920(広域計画・費用配分の見直し)で改善を図るが、本格解消には至らず。
機器・施工の詰まり
変圧器や高圧遮断器の調達リードタイム、EPC(設計・調達・施工)人材の逼迫が案件の着工ペースを鈍化させる。
2024〜25年の業界調査でも“トランス不足×系統遅延”がボトルネックの双璧として繰り返し指摘されている。
政策の向かい風
IEAは米国の税優遇縮小や規制変更を理由に、2030年までの再エネ見通しを下方修正。
結果、米国の成長期待がほぼ半減したとする分析も出ている。
政策の“不確実性”が投資判断の足かせになっている。
既にデータに表れ始めた減速
市場調査では2025年Q2の米国の太陽光導入が前年同期比▲28%との推計。
2024年がピークで、今後10年は年▲1%前後の微減という弱気シナリオも提示されている。
皮肉なことに、発電コストの競争力はむしろ過去最大。
にもかかわらず“つなげられない”ことが最大の制約になっている。
「世界」と「米国」のコントラスト
- 世界:加速
低価格モジュール+政策加速で、“設置場所の多様化(浮体・営農太陽光・蓄電併設)”が進む。
分散型(屋根)と大規模の両輪で裾野が広がる。 - 米国:制約
系統・機器・許認可という“土木・制度系の壁”が強く、資本コストの上振れや需要増(データセンター等)が系統増強の遅さを浮き彫りにしている。
何が解決策になりうるか(実務サイド)
- 接続プロセスの段階短縮と費用配分の透明化
クラスター方式の徹底、アップグレード費用の前広な共有、審査のSLA化で時間と不確実性を削る。 - 送電投資の前倒し(Order 1920の実装)
長期需要(AIデータセンター・電化)を前提に、広域系統の計画・負担のルールを実装する。 - 系統までの“ラストマイル”を軽くする設計
蓄電併設(ソーラー+バッテリー)で系統影響を平滑化、配電系での導入余地を拡げる。 - 機器サプライの多様化
大型変圧器の国内生産・調達多元化と標準仕様化でリードタイム短縮を図る。
価格低下の光と影
超低価格モジュールは導入拡大の追い風だが、製造の収益性悪化や供給の地理的集中という構造リスクも伴う。
IEA PVPSは2024年の産業価値がおよそ1,000億ドル規模に縮小したと指摘。
価格の底打ちと健全な競争の設計が、長期の安定供給に不可欠だ。
日本への示唆
- 系統制約は“対岸の火事”にあらず:
分散導入が加速するほど、配電系の接続・逆潮流・無効電力が課題化する。
系統側投資と運用(需給柔軟性・DR)のセット設計が必要。 - 価格局面を生かした調達:
価格下落期に標準化調達を仕込み、スケールメリットを確保。 - 蓄電・需要応答との複合:
PV+蓄電+需要家側制御で系統影響と単価変動に強いポートフォリオを組む。
(世界潮流が示すのは、“設備単体”ではなく“システムで語る時代”ということだ。)
まとめ:コストは勝った、系統で負けている——米国の教訓
世界の太陽光は量と価格の両面で過去最強の追い風を受けている。
だが米国は、系統接続と機器・制度の詰まりで相対的な失速に直面している。
設備コストの優位=導入が進むとは限らない。
系統という“見えないインフラ”に手を入れ、プロセスと投資のルールを整えた国・地域が、次の5年の主役になる。



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