「超富裕層の相続はお金の移動から影響(インパクト)の設計へ」——報道を起点に読む、次世代レガシー戦略

海外

South China Morning Postは、超富裕層(UHNW)ファミリーがレガシー(遺産・価値観・社会的影響)の設計に一段と比重を置き、“世代をまたぐインパクト”を残すことを優先し始めたと報じました。
References:South China Morning Post

背景には、地政学や市場の不確実性、そして巨額の資産が若い後継者へ移転する潮流があります。

記事は、スタンダードチャータードがドバイで開いたファミリーオフィス向けイベントの参加者の声として、単なる資産防衛ではなく“目的(Purpose)と統治(Governance)”を軸にした相続が台頭している実情を伝えています。

何が新しいのか:相続=分配から、相続=設計へ

  • レガシー志向の高まり
    家業・資産の承継を「資産の分け方」から「家族の価値観と社会的影響の設計」へ広げる動きが強まっています。
    SCMPは、UHNWが後継者教育・家族憲章・慈善とインパクト投資の位置づけを急速に整えていると指摘します。

  • アジア発“次世代マネー”の膨張
    SCMPの関連発信では、2030年までにアジアで約5.8兆米ドルが世代交代するとされ、家族オフィスは従来の資産運用から「価値・統治・継承の司令塔」へと役割を拡張中です。

  • “家族の遺伝子”を守る課題設定
    ユリウス・ベアーのファミリーバロメーター(2025)でも、“Family legacy”が最重要テーマの一つに浮上。
    目的や価値を明文化し、投資・寄付・人材育成へ接続する発想が広がっています。

データで読む:準備は進むが、課題は残る

  • 遺言・エステートプランの整備は前進
    UBSが示した調査では、遺言・エステートプランを整備済みの超富裕層が53%へ上昇(2023年42%→2024年47%→2025年53%)
    一方で、税務・後継者関与の不足が依然としてボトルネックです。

  • 後継設計の“未整備”も目立つ
    別の分析では、アジアの約37%の家族に正式な継承計画がないとされ、法的紛争・家族間対立・資産凍結のリスクが指摘されます。

  • 家族オフィスの地域シフト
    アジアではシンガポール/香港を核に家族オフィスが拡大
    運営・人材・規制面の整備が進み、複数世代での運用・統治を支える“インフラ”が厚みを増しています。

なぜインパクトがカギになるのか

  1. 不確実性の時代
    市場・地政学・規制の揺らぎが大きい今、「資産を“どう増やすか”だけでなく、“何のために使うか”」が、後継者の求心力と意思決定の基軸になります。
    SCMPのイベント報告も、目的と統治を両輪とする設計が主題でした。

  2. “一族としてのブランド”
    慈善・教育・研究支援・地域貢献など、家名と評判に資する活動は長期で効きます。
    投資ストラテジーにもインパクト志向(例:再エネ、AI×医療)が入り、「儲ける×残す×良くする」の三立が模索されています。
    家族資本の投資配分がプライベート市場やテーマ投資へ傾斜している調査もあります。

  3. “次世代の巻き込み”
    ミレニアル/Z世代の価値観は透明性・サステナビリティ・テックに親和的。
    意思決定に早期から関与させることで、継承時の摩擦を予防できます。

実務:レガシー計画の5つの柱

ガバナンス:家族憲章と意思決定の地図

家族憲章(Family Charter)に目的・価値・意思決定権限・紛争解決を明文化。

ファミリーカウンシル/投資委員会の権限分掌と議事運営を定義。

後継者の教育×参画ロードマップ

年齢帯別に金融教育・OJT・外部経験を設計。

観察→発言→共同決定へ段階的に役割を拡大。

インパクト配分と評価

財団/ドナー助成基金/ミッション投資の比率・テーマ・KPI(アウトカム)を設定。

投資方針書に“目的条項”を追加。

仕組みと拠点の最適化

単独FO/マルチFO/プラットフォーム型のコスト・スピード・統制を比較。

アジアではVCC等の器も選択肢。

法務・税務の整流化

遺言・トラスト・保険を“家族憲章と整合”させる。

管轄・税制・透明性規制に応じて資産の置き場を再設計。

よくある落とし穴

  • “資産はある、物語がない”問題
    配当政策や投資テーマと、家族の目的がつながらないと、次世代の当事者性が育ちません。

  • “書類はある、実装がない”問題
    憲章や遺言が運用プロセスに落ちていない(会議体が形骸化、KPI未設定)。
    定例のレビューと更新が不可欠。

  • “秘密主義”
    後継者を遅くまで蚊帳の外に置くと、継承時に法的・心理的コストが爆発します。

投資の現在地:守りと攻めのバランス

市場ボラティリティを受け、家族オフィスは守り(分散・債券・現金同等物)を厚くする一方で、攻め(プライベートエクイティ、AIや再エネなどの成長テーマ)を選択的に増やす姿勢が確認されています。

「財務リターン×家族の価値」の両立を、案件選定・ガバナンス・エンゲージメントで担保するのが主流です。

まとめ:「富を遺す」から「意味を遺す」へ

  • SCMP報道が示したのは、相続を“社会的影響の設計”として捉え直す超富裕層の視座です。

  • アジアの大規模な世代交代は、家族オフィスを資産運用+統治+教育のOSへと進化させています。

  • データは前進と課題の両方を示す——整備率の向上未整備層のリスク、その両方を直視し、ガバナンス・教育・インパクトの三位一体でレガシーを設計すること。

次世代レガシーの本丸は、「誰にいくら渡すか」より、“家族として何を為すか”を決め、その意思を仕組みに埋め込むことにあります。

ここに早く着手した家族ほど、富の持続可能性も、社会への好影響も大きくなるでしょう。

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