10月31日、テレビ朝日は、北海道積丹町の海田一時・町議会副議長(74)が、クマ駆除に対応した地元ハンター(猟友会)へ暴言を浴びせたとされる問題で、当人が謝罪を拒否し反論していると報じた。
References:テレビ朝日
猟友会は約1カ月にわたり出動を拒否。
副議長本人は「僕は悪くない」「辞めろとは言っていない」などと主張する一方、現場にいたハンターは「面と向かって『辞めさせてやる』と言われた」と食い違いが続く。
記事は2025年10月31日公開で、発端は先月27日(=9月27日)に副議長宅近くでわなに掛かったクマの駆除対応時に起きた口論だと伝えている。
報道での主張の相違
報道によれば、副議長は現場で「13人も来る必要があるのか」と人数の多さに疑義を呈し、予算や人員についての発言があったとされる。
本人は、「その場で『辞めさせてやる』『予算を減らす』とは言っていない」と否定し、撮影について注意を受けたことへの不満を述べた。
一方、現場にいたハンターは、「お金ばかりもらいやがって」「誰にものを言っている」などの暴言が続いたと証言。
発言の有無とトーンをめぐる当事者認識は平行線だ。
出動拒否が意味する現実的リスク
北海道では近年、ヒグマ出没や人身被害の増加が全国ニュースになる頻度が高い。
2025年は春以降の死者が過去最多水準と報じられ、都市近郊でも遭遇例が相次いだ。
現地自治体は注意喚起や対策強化を進めている。
こうした中で猟友会の出動が途絶えることは、住民の安全確保と初動対応に直結するボトルネックとなり得る。
背景①:法制度と緊急銃猟の運用
クマ対応は「鳥獣保護管理」の枠組みで運用される。
人身被害の危険が切迫した場面では、緊急の銃猟(緊急捕獲)が認められ、2024年末の方針や2025年の運用見直しを経て都市近郊でも機動的に対応できる制度整備が進んだ。
だが制度は現場の人員・訓練・装備・連絡系統があって初めて機能する。
担い手の高齢化や地域の受け皿の薄さは、全国的な共通課題だ。
背景②:北海道猟友会の通達と現場の負担
2025年夏、北海道猟友会は、改正制度の運用に伴う緊急銃猟への対応方針を文書で示し、所持許可変更や推薦状など、法令・手続面の適正運用を重視する姿勢を明示した。
現場では安全管理・法令遵守・記録作成に加え、夜間出動や遠隔地対応など負担が増大している。
制度が広がるほど、現場の合意形成と待遇・保険・装備の整備が不可欠になる。
背景③:なぜ対立が起こるのか
今回の対立には、①人員・予算の妥当性、②現場の安全確保に関する指揮命令系統、③情報発信や撮影のマナー、といった複数の摩擦点が重なっている。
例えば、危険動物対応の現場では「関係者以外立入禁止」と撮影自粛が原則で、隊列や射線の安全を最優先する運用が求められる。
にもかかわらず、現場での口論や撮影トラブルが発生すれば、当事者間の信頼は急速に損なわれる。
積丹町ケースで必要な3つの整理
- 初動の指揮命令
出動要請から現着・危険排除・撤収まで、誰が現場責任者か、非関係者の退避指示権限は誰にあるのかを様式化する。
住民・議会・役場・猟友会の合意文書を作り、現場では議会関係者も一住民として隊の指示に従う原則を確認する。 - 人数・費用の説明責任
「なぜこの人数が必要か」を作戦計画(危険度・地形・回収方法)とセットで事前に説明できるようにし、支出の透明化を図る。
説明があれば“多すぎる”という印象論は和らぐ。 - 苦情処理とエスカレーション
現場では口論を避けるのが鉄則。
苦情は窓口で受け、検証は後日。
当事者同士でのやり取りは再燃の火種になる。
北海道全体のヒグマ時代に備える
近年の遭遇増加は、堅果不作・気候変動による冬眠遅延・過疎化で荒れた里山など複合要因が背景とされる。
国・道は注意報や対策計画を運用し、個人の行動様式(単独行動を避ける、食べ物を放置しない、撃退スプレー)まで含めた総動員の安全文化が必要だ。
問題は“誰かが何とかする”任せでは解けない。
町と猟友会の取引コストを下げる設計
- 協定(MOU):
出動基準、隊編成、装備、費用負担、広報の分担を明文化。 - 定期訓練:
年2回程度の机上演習+現地訓練で役場・警察・消防・猟友会の連携を平時に確認。 - 安全・装備パッケージ:
通信、暗視、保険、車両、回収具などをまとめて整備し、待機手当や保険を含む待遇の底上げをする。 - 記録と監査:
ボディカメラ/作戦ログの標準化で、事後検証を簡素化し、苦情の事実認定を透明化。 - 広報:
出動後は当日の概要・人数・危険評価をテンプレートで即日発表し、誤解を未然に防ぐ。
これらは現場の負担軽減と説明コストの削減に直結する。
制度が整っていても人的リソースが回らなければ動かない。
設計の要は現場の手間を減らすことだ。
倫理と感情の交点──「駆除」は何を意味するか
命を奪う行為である駆除には、当然ながら倫理的抵抗が伴う。
だが、人身被害が切迫する場面では、迅速な危険排除が最優先される。
共存のための間引き(管理捕獲)、学習放獣、人側の行動変容など“中長期の策”と、緊急時の即応(駆除)は対立概念ではない。
どちらも必要であり、どちらも説明が要る。
町と猟友会の関係は、住民の安全と野生動物の保全の二律背反を現場で調停する器でもある。
本件の論点整理
- 事実関係:
発言の具体内容は証言が食い違う。音声や記録の有無が今後の焦点。 - 制度運用:
緊急銃猟の拡大は現場の負担増と表裏。
待遇・安全・説明がそろって初めて持続可能。 - 地域安全保障:
出動拒否の長期化は住民リスクを高める。
代替ハンターの確保は一時的措置で、恒常化は困難。 - 社会文脈:
遭遇・被害の全国的増加という潮流の中で、局地的対立は起こりやすい。
構造的課題として扱う必要がある。
まとめ
積丹町の“出動拒否”騒動は、誰かの感情だけでなく、制度・現場・説明の三つの歯車が噛み合っていないことを示している。
緊急対応の指揮系統の明確化、人数と費用の事前説明、苦情処理の分離といった小さな設計変更で、対立の再発は大きく減らせるはずだ。
クマ問題はもはや「山だけの話」ではない。
都市近郊の生活圏にまで広がる現実を前に、自治体—猟友会—住民の間で実効性のある合意を積み上げることが、次の“出動”をめぐる不毛な争いを防ぐ最良の手段である。



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