宮城の強豪・仙台育英高校サッカー部で、3年生の男子部員が複数の部員から暴言を受け、昨年「抑うつ症状」と診断されていたことが判明。
References:FNNプライムオンライン
学校は「いじめ重大事態」として調査を開始しました。
11月2日に県大会で優勝したものの、年末の全国大会(選手権)への出場は調査結果を踏まえて判断するとしています。
学校は「辞退を判断するには調査時間が不足していたため、被害生徒と保護者の了承を得て出場した」と説明。
顧問団にも認識の欠如があったとする校長名の文書も保護者に通知しています。
事実関係の整理
- 被害の内容:
対象はサッカー部の3年男子。
1年生だった2023年春頃から、同級生ら複数の部員から「うざい」「デブ」などの言葉を繰り返し浴びせられたとされ、昨年に「抑うつ症状」と診断。
現在も通院が続いています。 - 発覚の経緯:
10月14日、当該生徒が指導者に「部活に出られない」と訴え、学校が把握。
いじめ防止対策推進法に基づき調査を開始しました。 - 大会への対応:
サッカー部は11月2日に県大会優勝。
学校は問題を把握していたが辞退判断に必要な時間が不足、被害生徒と保護者の了解のもと出場したと説明。
全国大会への出場可否は「現時点で判断できない」としています。 - 校長文書のポイント:
「『いじり』と『いじめ』の線引きが曖昧」「顧問団にも認識の欠如」「指導体制に構造的課題」と自己点検。
再発防止とケア体制の再構築を掲げています。
法制度:なぜ「重大事態」なのか
いじめ防止対策推進法では、次のいずれかで「重大事態」と定義され、学校設置者(私学含む)に速やかな事実調査の義務が課されます。
- いじめにより生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき
- いじめにより相当の期間の欠席を余儀なくされている疑いがあると認めるとき
今回、心身への重大な影響(抑うつ症状の診断)が公表されており、学校が重大事態に該当すると判断したプロセスは法の想定に沿います。
調査は第三者性・丁寧な情報提供が求められ、結果は被害生徒・保護者に適切に提供されなければなりません。
「いじり」と「いじめ」の境界
現場で最も曖昧になりやすいのが「いじり」の扱いです。
法令・ガイドライン上、繰り返しの言動による心理的圧迫や人格の侵害は、物理的暴力や金銭要求がなくてもいじめに該当し得ます。
笑いの共有や関係性の近さは免罪符にならず、被害側の受け止めが重視されるのが近年の運用です。
今回の校長文書は、加害側(と受け取られる側)だけでなく、指導者の認識にも課題があったと明示しており、部活動という閉じた人間関係で起きやすい“内輪の常態化”に焦点を当てています。
スポーツ強豪校で何が起こりやすいか
- 序列と同調圧力:
学年・レギュラー・役割の非対称性が強いほど、言葉のマウントが常態化しやすい。 - 勝利至上と“見過ごし”:
結果に近い行動が優先され、小さな違和感が後回しに。
「勝つための厳しさ」と人格侵害の線引きが崩れます。 - “外”の目の不足:
顧問団の固定化や保護者の距離が、第三者チェックの欠落を招く。
今回の「構造的課題」の指摘はまさにここ。
県大会優勝・全国出場「未定」の含意
大会辞退の是非は、地域社会や高校スポーツ全体にも影響する難題です。
学校は「時間的制約があった」として決勝出場を選びましたが、被害生徒・他部員・対戦校・観客——全てのステークホルダーに説明可能性を担保する必要があります。
全国出場の判断を留保したのは、第三者調査の節目(暫定結論・報告)を見据えた対応と読み取れます。
いま学校が直ちにやるべきこと
A. 調査・情報公開
- 第三者調査の立ち上げ:
人選・守秘・利益相反の開示。質問票・面談の手順を保護者向けに明文化。 - 節目での中間説明:
被害生徒・保護者へは優先・個別に、全体向けには個人特定回避の範囲で。
B. 被害生徒への支援
- 医療・心理的ケアの継続:
通院フォローと学習・進路の個別配慮(レポート代替・出欠扱いの弾力化)。 - 安全配慮:
関係者の物理的分離(練習帯・更衣室・動線)、接触ルールの暫定措置。
C. 加害と指導体制への対応
- 事実認定→教育的指導:
反省・学習プログラム(当事者研究・ロールプレイ)を実施記録まで残す。 - 顧問団の再訓練:
言語暴力の評価基準、指導言のチェック、“叱責”の手続化(第三者同席や記録化)。
D. 制度設計(再発防止)
- 匿名通報と可視化:
部内アンケートを月次で実施し、“嫌だった言動”をカテゴリ別ヒートマップで可視化。 - 保護者・OB/OGの関与:
外部アドバイザー(臨床・弁護士・スポーツ心理)を定期巡回に。 - 大会期の特別ルール:
勝利圧の高い期間は面談頻度アップ、ロッカー・移動時の見守り等の短期SOPを適用。
これらは、法28条の重大事態調査義務(速やかな事実関係の明確化)と合致し、結果の適切な情報提供まで到達させるための最低限の土台です。
タイムライン(現時点)
- 2023年春頃〜:
1年次から暴言の繰り返し。 - 昨年:
被害生徒が「抑うつ症状」診断、通院継続。 - 2025/10/14:
生徒の訴えで学校が把握。 - 2025/11/1:
校長名の文書を全保護者に通知(重大事態として位置づけ、顧問団の認識欠如を自己点検)。 - 2025/11/2:
県大会優勝。 - 現在:
全国大会出場は未定。第三者調査を進行。
まとめ
今回のポイントは3つです。
- 深刻性の認定:
診断を伴う心身被害が重大事態を引き寄せ、第三者調査の義務が発動。 - 構造の是正:
「いじり」の放置と指導体制の課題を学校みずからが明言した重み。 - 大会判断の透明性:
辞退の是非は学校だけの問題ではなく、被害生徒・他部員・競技コミュニティに説明可能性を要する論点。
勝利と人権はトレードオフではありません。
測るもの(指導・言葉・安全配慮)を見直し、第三者性と記録で“見える”運用に切り替えられるかが、信頼回復のカギです。



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