デリーが「人工降雨」でスモッグ浄化に挑戦——効果と限界を読み解く

海外

ヒンドゥー教の祭典ディワリ直後、デリーの空気質はAQI1000超の観測点も出るほど急悪化。
※AQIとは、Air Quality Index(大気質指数)のこと。
 AQI 1000=極めて深刻な大気汚染 を意味しています。

州政府はクラウドシーディング(人工降雨)の試験飛行に成功したとして、最短で10月29日の実施を見込むと表明しました。
References:The Independent

一方で専門家は懐疑的——「一時しのぎに過ぎず、根源対策が不可欠」と警鐘を鳴らしています。

本稿では報道の要点、人工降雨の仕組みと有効性、そして政策上の論点を整理します。

報道の要点

  • 何が起きたか
    ディワリの打ち上げ花火が冬季の停滞場+既存汚染と重なり、都市各所で“深刻(Severe)〜危険(Hazardous)”のレベルに。
    マンダー・マルグ/ロディ・ロードでは一時AQI1300超が観測されたと報じられました。

  • 政府の対応
    雲量が整えば人工降雨を実施する方針。
    既にブラーリ地区での試験は「成功」とされ、10/28〜30の天候を見極めると説明しています。

  • 論点
    短期の“洗い流し”効果は期待できても、長期改善には寄与しにくいとの指摘。
    IITデリーの研究者は「誤用の科学であり倫理的にも問題」と強く批判し、発生源対策の実行を求めています。

人工降雨とは?——雲のタネをばらまく技術

クラウドシーディングは、小型機からヨウ化銀/食塩(ヨウ素化食塩や岩塩)などの微粒子を水蒸気豊富な雲へ散布し、水滴の核を人工的に増やして降水を誘発する手法です。

適切な気象条件(十分な雲量・上昇流)が整えば、降水量が平均5〜15%程度増えるとする研究が多数。

UAE・米国・中国などで干ばつ対策や霧消散、雹被害の抑制に用いられてきました。

大気汚染への効き方は基本的に“雨による洗い落とし(ウェットデポジション)”

PM2.5/PM10を雨滴が捕捉し地表に落とすことで一時的に濃度を下げる、というメカニズムです。

それでも専門家が懐疑的な理由

  1. “条件依存”が強すぎる
    冬のデリーは逆転層が強く、雲量や上昇流が乏しい日が多い。
    “雲が来た時しか撃てない”技術で、継続的な改善は見込みにくい。
    実際、当局は気象条件が整わず延期する場面も説明しています。

  2. 効果は“短い・ばらつく”
    降雨があっても数時間〜数日の小康状態にとどまり、発生源が動き続ける限り濃度はすぐ再上昇し得ます。
    5〜15%増雨は農業・渇水には意味があっても、都市スモッグの恒常対策には非力

  3. “便利なショートカット”の誘惑
    IITデリーの大気科学者Shahzad Ghani氏は、「スネークオイル(まやかし)」「倫理的失敗」と批判。
    根源対策から注意をそらすリスクを指摘します。

今年の特異さ——花火規制の緩和と守られなかった時間帯

最高裁は今年、“グリーン花火”に限り2時間枠×2回(前夜と当日)での使用を認めましたが、実際には深夜まで広く使用されたと報じられています。

季節性の停滞・農地焼却・建設粉じん・自動車排ガスが重なる上に、花火の追加負荷が可視化された年だったと言えます。

「命の年数」を削るスモッグ

シカゴ大学のAQLI(Air Quality Life Index)によれば、WHO指針(PM2.5=5µg/m³)を達成できれば、デリー市民の平均余命は理論上約12年延びると推計されています。

人工降雨の短期効果と長期的健康影響のスケール差は、政策選択の重みを改めて示します。

何を根源対策とみなすか(実務の優先順位)

  • 移動発生源
    ユーロ相当規制の厳格運用、PUC(排ガス適合)の常時取締、バスの電動化・渋滞課金の検討。

  • 固定発生源
    建設現場の粉じん抑制(水撒き・覆い)、石炭・ディーゼル発電の運用抑制、ディーゼル発電機の禁止強化。

  • バイオマス焼却
    衛星監視と農家補助(代替処理への金銭インセンティブ)のセット。

  • 季節運用
    GRAP(段階的対応計画)の事前発動、学校・屋外労働のアラート運用、N95/HEPAの調達・配布。

  • 行動対策
    花火の販売・時間・場所の厳格化と、違反の即時罰則(“文化と健康”の両立設計)。

これらは地味ですが、確実に年単位の改善を積み上げる道です。

人工降雨をやるなら——最低限のKPI設計

人工降雨は「緊急避難」として位置づけるのが現実的。

その際は効果検証が不可欠です。

  • 事前・事後のPM2.5/PM10(街区ごと、1時間平均・24時間平均)

  • ビジビリティ・混濁度救急外来の呼吸器受診数

  • 降水の空間分布(レーダー)と量路面粉じんの再浮遊速度

  • コスト/µg削減当量(人工降雨1回あたりの直接費+外部コスト)


“AQIを何ポイント、何時間、いくらで下げたか”を公開し、発生源対策との費用対効果を市民に説明する責任があります。

まとめ——洗い流すだけでは空は晴れない

  • 今年のデリーは、ディワリ後にAQI1000超の観測点も出る異常事態。
    政府は人工降雨の実施に踏み切りましたが、効果は気象依存で短期的との見方が主流です。

  • IITデリーの研究者が指摘するように、発生源対策こそ王道。
    交通・建設・バイオマス・発電の“止める/減らす”を積み上げない限り、翌週には元の濃度に戻りかねません

  • それでも人工降雨を緊急回避として使うなら、透明なKPIで費用対効果を検証し、短期施策↔長期対策の役割分担を明確にすること。

市民の健康(余命)と空の青さを取り戻す近道は、科学的・地道な“源流対策”にほかなりません。

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