11月7日の衆院予算委の本格論戦を前に、高市早苗首相が当日未明の午前3時から首相公邸で答弁準備の勉強会を実施。
職員らを巻き込んだとして国会で謝罪した。
これに対し、国光文乃・外務副大臣(元官僚)はXで「野党の質問通告が遅いことが根本原因」と主張し、人事院の資料や政党別の“通告遵守状況”に言及した――というのがニュースの骨子だ。
報じたデイリースポーツは、国光氏が示した資料に基づき「2日前ルールを守らない政党として、1位・立憲民主党、2位・共産党が突出」と伝えている。
References:デイリースポーツ
質問通告2日前ルールとは何か
国会では、円滑な審議と正確な政府答弁のため、質問の趣旨や対象を事前に伝える質問通告の慣行がある。
期限は法令ではなく与野党の申し合わせで運用され、委員会ごとに「前日」や「前々日の正午」などが取り決められてきた。
1999年の合意文書でも「質疑者は原則として前々日の正午までに趣旨等を通告」と記されており、強制力のある法律・議院規則ではない点が重要だ。
どのデータを、誰が根拠にしているのか
国光氏がXで示した“政党別の遵守状況”の出所は、官民の働き方コンサル企業ワーク・ライフバランス(WLB)が2021年に中央省庁職員316人へ行ったアンケート・プレスリリースだ。
同リリースは「質問通告の『2日前ルール』は85%が守られていない」「遅いのは立憲民主党・共産党」などの結果を掲載しており、国光氏はそれを引用している。
ただし、公的統計ではなく任意回答調査であり、サンプル構成やバイアスへの注意は欠かせない。
人事院資料が示す構造的な遅延要因
一方、人事院(国家公務員の人事管理機関)が全府省に行った調査(2023年公表)は、国会対応の超過勤務要因として「質問通告が遅い」「質問通告の内容が不明確」を上位に挙げている。
これは政党名の特定はしていないが、“遅さ”と“内容不明確さ”が過重労働の主要因である点は公的調査でも裏づけられている。
反論・別視点:本当に野党が遅いだけなのか
報道やSNSでは「野党の通告が遅い」批判が目立つ一方で、「官庁側の“質問取り”が遅い/詳細詰めを過度に求めるから深夜化する」という反論も出ている。
ニッカンスポーツは、国光氏の投稿に対し「質問通告が遅いのではなく、役所が質問取りに来るのが遅いだけ」との異論が寄せられていることを紹介している。
つまり、与野党と官庁の相互作用で遅延が増幅する、という構図だ。
3時勉強会が投げかけた論点
テレビ各局も「モーレツ勤務」として取り上げ、官僚や議員の長時間労働、さらには政府が掲げる労働時間規制の緩和議論との矛盾にまで射程を広げた。
根因がどこにあれ、当日未明に総理が答弁レクをする状況は持続可能性に疑問符が付く。
制度と運用のねじれ
- 法的根拠の弱さ:
2日前ルールは申し合わせにとどまり、違反への明確な制裁がない。
結果、例外運用が常態化しやすい。 - 実務の非デジタル性:
WLB調査は、FAX依存や対面レクのアナログ運用が遅延の悪化要因であると指摘。
オンライン化での改善余地は大きい - 公的改善提言の積み上げ:
人事院は、通告の早期化/内容の明確化/オンライン活用などの改善要望を整理。
与野党も「速やかな通告」に努める申し合わせを行ってきたが、実効性の担保が課題のままだ。
何をもってエビデンスとするか
今回、報道で拡散された「政党別の遅延」は民間調査(2021年)が土台で、時点差や回答者の主観混入を無視できない。
同時に、人事院の公的調査は政党名を出さずに要因の一般像を描くにとどまる。
よって、「野党Xが悪い/与党Yは無関係」と短絡化するより、
・公式の通告到達時刻の記録・公開、党派別の時系列統計
・通告フォーマットの標準化(論点・根拠資料・想定答弁対象の粒度)
・“質問取り”のデジタル化・リモート原則化
といった測定可能で比較可能な仕組み化が先だ。
政策的な打ち手
- 通告期限の“明文化+可視化”:
委員会ごとの申し合わせを議院規則等で明文化し、「前々日正午」の到達時刻をオンラインで自動記録・公表。
やむを得ない例外は事由・時刻を併記して後日検証。 - 期限逸脱時の運用:
原則は後日文書回答/次回繰越などの“セーフティネット型”運用に統一し、深夜レクの抑止を図る。 - プロセスのデジタル化:
オンラインレク、メール/共有ドライブの標準利用を委員会運営で義務化。
省庁側も答弁作成のワークフロー見直しを継続する。
まとめ
「午前3時勉強会」は、質問通告の期限運用と実務の非デジタル性という二つの古傷を一気に露呈させた。
人事院調査は“遅い通告”と“内容の不明確さ”を主要因として示し、WLB調査は政党別の傾向を示すが、公的な政党別統計は未整備だ。
感情的な党派論争に回収せず、ルールの明文化と計測可能な透明化、デジタル前提のプロセス設計へと議論を進めることが、官僚の長時間労働と政治の信頼を同時に改善する近道である。



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