Xで拡散した一本の動画をめぐり、高校現場での体罰・威圧的指導の是非が激しく議論されています。
投稿はインフルエンサーの滝沢ガレソ氏によるもので、静岡県沼津市の私立・桐陽高校とされる教室内で、教員が生徒の髪をつかみ、頭部を叩き、「明日退学届を持ってこい」と迫る様子が紹介されました。
投稿は短時間で大きな反響を呼び、「やりすぎだ」「昔は普通」と賛否が分かれています。
本稿では、報道(ポスト)の内容を要約し、日本の法制度・指導ガイドライン・学校運営の観点から論点を深掘りします。
何が「共有された事実」か(現時点)
- 投稿内容:
動画は授業中の教室とみられ、居眠りをした生徒に対し、教員が髪を掴む・頭部を叩くなどの行為を行い、強い口調の叱責とともに「退学届」に言及する、と伝えられています。
本文・引用の書きぶりはほぼ同様の要点で複数のまとめ・掲示板にも転載され、一斉に拡散している段階です。 - 確定していない点:
①動画がどの時点・どの授業で撮影されたか、②学校・設置者の公式見解、③当該教員・生徒の具体の処分・支援──は本稿執筆時点で確認できる一次情報が限られます。
続報での公式発表の確認が不可欠です。
体罰は「全面的に禁止」—法と指導基準の原則
日本の学校では、体罰は法律上禁止です。
文部科学省は学校教育法第11条の解釈を示し、肉体的苦痛を与える行為は体罰として許されないと明記。
叱責や指導のうち、肉体的苦痛を伴わない範囲の懲戒のみが認められます(例:起立・別室指導・課題付与など)。
2013年通知でも「体罰を厳しい指導として正当化するのは誤り」と繰り返し周知しています。
髪を引っ張る・たたく・長時間の苦痛姿勢を強いる等、程度や意図にかかわらず、身体的苦痛や身体的強制を伴う行為はすべて体罰に当たり、禁止されています。
懲戒として許容され得るのは、身体的苦痛や身体的強制を伴わず、かつ教育的妥当性・必要性・相当性および適正な手続を満たす指導に限られます。
「退学届」「闘魂指導」はどこが問題か
- 退学の扱い:
私立校には校則や就学規則に基づく懲戒(退学・停学・訓告)がありますが、手続の適正や教育的配慮が前提です。
授業中の単発の非行為(居眠り)に対し、即時に退学届を迫る言動は、教育的妥当性でもリスク管理でも疑義を招きます。 - 威圧的言動の教育効果:
文科省は“恐怖で従わせる”手法の否定を一貫しており、生徒理解に基づく指導・関係性の再構築を推奨。
「厳しさ=肉体的苦痛・威嚇」という短絡は、問題の先送りや不信の固定化につながると注意喚起しています。
「昔は普通」の反論をどう評価するか
「昔はこれくらい普通」という声は、SNSのリアクションで必ず現れます。
しかし、
- 法的基準は現在の子どもの権利保障を踏まえて整備され、体罰は明確に禁止。
- 教育効果の検証でも、体罰は短期服従を得られても内発的動機づけ・関係の回復を損なう傾向が指摘されています。
- 学校の信頼(保護者・地域・他生徒)を損ない、炎上・法的紛争のコストが組織に跳ね返ります。
従って、ノスタルジーによる正当化は成り立ちません。
バイラル化する動画と炎上実務
今回の件は、拡散速度と論点の切り取りという点でも考える材料を与えます。
発端ポストのアカウントは、事件・不祥事の簡潔なまとめで拡散力を持つ一方、過去に虚実混交の炎上を招き後日撤回・謝罪した事例も報じられており、事実関係の裏取りが常に重要です。
「動画一本」に過度依存せず、学校・所轄の公式説明を待つ姿勢が必要です。
学校が直ちに取るべき対応
- 初動:
当該生徒・保護者への安全確保とヒアリング、関係職員の聞き取り、同様事案の有無の洗い出し。 - 記録化:
動画・校内カメラ・授業記録・勤務割・相談履歴等の証拠保全。 - 対外説明:
事実確認の進捗、再発防止策の骨子、相談窓口の提示。
一方的な憶測を避け、「確認中」「確定」のラベリングを明確に。 - 再発防止:
体罰禁止・懲戒の線引き研修、授業崩壊の予防策(眠気・不調の把握、学級経営の改善)を年度計画に組み込む。
保護者・生徒の視点:どう動くべきか
- 学校の公式窓口に相談:
学級担任や生徒指導主事、管理職、設置者(学校法人)へ記録を添えて事実確認の要請を。 - 外部機関:
県の私学担当課や教育相談窓口、必要に応じて児童相談・警察への相談も選択肢。 - SNS拡散の留意点:
未成年の顔や個人情報、特定可能な情報の拡散は二次被害を生みます。
学校の調査と本人の回復を優先できる形での共有が望まれます。(一般論/複数の炎上事例が示す教訓)
まとめ:必要なのは「厳しさ」ではなく境界と回復の設計
今回のポストは、“指導の線引き”を社会に問い直しました。
髪を掴む・叩くなど身体的苦痛を与える行為は体罰=禁止というのが日本のルールです。
退学をちらつかせる威圧も、教育的合理性・手続の適正を欠けば組織のリスクになります。
学校は、初動調査→説明→再発防止を透明に回すこと。
保護者・生徒は、公式ルートでの相談と二次被害を避ける配慮を。
社会は、「昔は…」という回顧ではなく、法・ガイドライン・科学的知見にもとづく持続可能な学校文化を選ぶこと。
これが、炎上に終わらせず次の改善へつなげる筋道です。



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