Xが「休眠ハンドル市場」を開設へ——“名前”を売る時代の設計図と、企業・個人の実務チェックリスト

IT

報道の要点

X(旧Twitter)が、使われていないユーザー名(ハンドル)を取得・購入できる公式マーケットプレイスを立ち上げます。
References:TechCrunch

Premium+/Premium Business加入者は休眠ハンドルを検索・申請でき、区分は無料の「Priority」有料の「Rare」
Rareは2,500ドル〜最大7桁の価格帯が示されました。

申請は通常3営業日以内に審査
承認されると新ハンドルに切り替わり、元のハンドルは凍結されます(将来的にリダイレクト有料追加の検討も)。

  • Priority(無料)
    フルネームや複合語など。Premium+/Business限定で申請→承認なら無償移管
    ただし課金を解約・ダウングレードすると30日猶予後、元のハンドルに自動回帰=取得した新ハンドルは失う。

  • Rare(有料)
    短語・一語・文化的に希少な語など。公開ドロップ招待制の定価販売で提供。
    人気・文字数・文化的意義などで価格が決まり、購入後はサブスクを解約しても保持可能

Xは「ボット流入や悪用を避けるため、一斉開放ではなく統制的に再分配する」と説明。
ウォッチリスト登録で、希望名が市場に出た際に通知も受けられます

背景には広告不振有料会員の誘引という収益上の狙いも透けます。

なぜ公式市場なのか:灰色市場の封じ込め

X(Twitter)では長年、短く希少な「OGハンドル」を巡って非公式売買SIMスワップ社内ツール悪用まで絡む不正が横行してきました。

2020年の大規模アカウント乗っ取りでも、実は珍名の転売が犯行初期の目的の一つだったことが詳報されています。

OGUsersと呼ばれる取引掲示板の摘発・サイバー攻撃も繰り返し報じられ、各プラットフォームが共同で締め出しに動いた経緯があります。

公式市場の開設は、こうした地下取引の需要を“表口”に誘導する安全弁と捉えられます。

さらに言えば、X自身の規約は長らく「休眠ユーザー名は解放できない」としてきました(商標侵害は別途対応)。
公式の売買・再配分へ舵を切ることは実務の大転換です。

仕組みの要点:料金設計と保持要件

今回の制度は「サブスク紐づけの無料移管」「一度買えば保持できる有料移管」を明確に分岐させています。

  • 無料(Priority)は会費=利用権
    解約で新ハンドルは失権し、元の名前に戻る(30日猶予)。
    “名前のレンタル”に近い。

  • 有料(Rare)は買い切り
    サブスク終了後も保持というデジタル資産性が強く、一語一般名詞などブランド価値と直結しやすい。

この二層設計は、大量の一般需要は会費で吸収し、高額の希少需要は一発の売上で回収する「鋏み撃ちの収益モデル」。

4桁〜7桁ドルという価格レンジの提示は、希少名の“資産化”を事実上公認する意味も持ちます。

リスクと論点:商標・なりすまし・検索混乱

  • 商標との関係
    Xは商標侵害の申立てなりすまし報告の窓口を維持。
    商標権者は依然として優先的な回復ルートを持ちます。
    市場で第三者が先に買ったRareが他人の登録商標と同一/紛らわしい場合、ハンドル回収・停止の可能性は残る——“買えば絶対”ではない点は要注意です。

  • スカッティング(便乗取得)
    学術研究でも、有名人・ブランドの類似ハンドルが検索・メンションで誤誘導を生む問題が示されました。
    公式市場が審査基準(貢献度・用途・リーチ)を掲げるのは、誤誘導の社会的コストを抑えるガバナンス意図と読めます。

  • “解約で失う”設計の透明性
    Priorityは解約=回帰という重要条件があり、誤認するとトラブルになりがち。
    サブスク規制(オプトアウト課金)に厳しい国・地域では、表示や解約導線の明確化が求められます。

歴史的文脈:Xの名寄せは一貫テーマだった

2019年の休眠アカウント一斉削除の予告(のち保留)、2023年の“未使用ID開放”発言など、希少ハンドルの再循環は一貫した関心事でした。

今回の公式市場化は、その延長線上に位置づきます。

企業・自治体・個人の実務チェックリスト

1)監視と先手
Premium+/Businessで検索→ウォッチリスト登録
ブランド名/主製品名/略称/スローガンなど“将来使うかもしれない別名”も含めて候補洗い出し。

競合・成りすましリスクの高い語は、Rareの直接購入も検討(買切り=解約後も保持)。


2)法務とポリシー
主要国での商標出願・更新を並行
使用実績の整理(商品・広告・SNS)で混同のおそれを示せる証跡を確保。
侵害申立て窓口はブックマーク。

SNSネーミング規程(部署横断での取得・変更手順、解約時の戻り条件)を文書化。
解約→回帰のリスクを運用に織り込み、名寄せ・リンク修正のフローを準備。


3)セキュリティ
SMSではなくアプリ型2FA、主要アカウントの回復情報管理、SIMスワップ対策を徹底。
希少ハンドルは攻撃の標的になりやすい。


4)コミュニケーション
取得後は全チャネルの表記検索広告・構造化データを即時更新。
旧ハンドルの凍結・将来のリダイレクト有料追加の動向も注視。

価格は高いのか:ブランドの費用対効果

短い・意味の強い一語は、検索・想起・口伝のあらゆる摩擦を下げます。
広告費換算で考えると、2,500ドル〜7桁のレンジは長期のブランド資産投資。

ただし、保護(商標・侵害対応・2FA)にかける運用コストも同時に発生します。
買って終わりではない、が結論です。

予測:これから起きること

  1. 灰色市場の縮小と“正札化”
    地下で値付けされていた希少名に公式の相場が立ち、不正奪取の魅力が相対的に低下
    ただし超希少名の非公式取引は残存。

  2. 商標紛争の“X内解決”増
    購入済みRare vs. 商標権者の衝突で、ヘルプセンターの運用が裁定的機能を帯びる。

  3. “名前は資産”の常識化
    ドメイン時代のUDRPに似た、SNSハンドル版の実務慣行が固まる。
    社内に「ハンドル管理台帳」を置く企業が増えるでしょう。

まとめ

Xの休眠ハンドル市場は、“名前”を資産として流通させる大胆な制度設計です。

無料のPriority=サブスク継続が条件有料のRare=買切りで保持という二層は、収益と安全の両立を狙う現実解。

その一方で、商標・なりすまし・検索混乱という古くて新しい問題は消えません。

答えは運用にあります。
監視(ウォッチ)→先手取得
法務(商標・申立て)
セキュリティ(2FA・SIM対策)
解約時の戻り条件を織り込んだ社内手順

“欲しい名前”は、待つより備える。
それが市場化時代の最適戦略です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました