著名エンジェル投資家が語る「勝敗が見えたAI市場」と「まだ空いている市場」

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著名エンジェル投資家のElad GilがTechCrunchの取材で、ここ1年で“勝ち筋が固まりつつある領域”と“まだ誰でも勝てる領域”が明確になってきたと語りました。
References:TechCrunch

基盤モデルやAIコーディング、医療メモ、カスタマーサポートなどは先行者優位が強まり、他方で金融ツール・会計・AIセキュリティは依然“空いている”との見立てです。

さらに、大企業の“試し買い”が作る見かけの急成長=偽シグナルへの警鐘も。

起業家・投資家が今どこに賭けるべきかを、同発言を手掛かりに整理します。

勝敗が見え始めた領域

  • 基盤モデル(Foundation Models)
    勝者はGoogle、Anthropic、OpenAIを筆頭に、xAI、Meta、Mistralなど「ひと握り」に収れんするという見立て。
    大量資本・人材・推論網を押さえた“総合格闘技”で、後発は入りにくい

  • AIコーディング
    Claude Code(Anthropic)やOpenAI勢に加え、Cursor(Anysphere)やCognition(Devin)といった俊足スタートアップが先行。
    Magic、Poolsideも猛追し、すでに“独走体制”の芽が見える。

  • 医療メモ(医療現場の会話→要約)
    Abridgeがフロントランナー、Ambienceなどが追随。
    臨床現場への導入難易度(ワークフロー統合・法規制・品質担保)が参入障壁

  • 顧客対応(カスタマーサポート)
    Decagon(Gilの投資先)、そしてBret TaylorのSierra、加えてSalesforceやHubSpotなど大手のAI機能が押し寄せ、高品質の自動化スタック+既存CRM統合を握った陣営が優位。


参考:CognitionがWindsurfを買収するなど、コーディング領域は大型再編も進行。
先頭集団と資本の呼び込みが加速している。

まだ広く空いている領域

  • 金融ツール/会計
    高い自動化余地×規制対応の難しさが両立する分野。
    会計の仕訳・照合・監査準備はLLM+RPA+勘定科目ルールに親和的だが、正答率・説明責任・監査適合が鍵。
    Gilも「非常に面白いが、まだ勝者が決まっていない」と指摘。

  • AIセキュリティ
    モデル供用・プロンプトインジェクション・データ漏えい・エージェントの越権行為など、新リスクへの標準解は未確立。
    ポリシー即時反映・証跡・隔離実行といった“AI時代のゼロトラスト”を握るベンダーは、横断的な勝ち筋になり得る。

「急成長=勝ち」の時代ではない

Gilは、大企業が“AIの全方位実験”を始めた結果、初期売上が膨らみやすいと警鐘を鳴らします。

PoC乱発→短期成長は定着率(スティッキネス)が低いと頓挫するため、“成長の質”を見誤るな、という主張です。

実際、リーガルAIのHarveyは連続大型調達で評価額が短期で3→5→8Bへ跳ねた一方、Gilは「本当に定着しているか」の目配りを促しています。

いま有効な勝ち筋

  1. ワークフロー前提で作る
    単機能のLLMラッパーではなく、現場の作業単位(例:デベロッパーのPR/法律家の条文比較/サポートのケース解決)まで落とし込む。
    SOP・権限管理・棚卸しをアプリ内で完結させる。

  2. 既存SaaSと深く結ぶ
    CRM/ERP/EMR/IDEなどの“土管”に埋め込む。
    SSO、監査ログ、ロール権限の対応はPoC→本番への関門。

  3. 品質の定量化
    正答率・MTTR・一次解決率・レッドライン逸脱ゼロのように、ビジネス指標と結びつけた品質SLAで“成長の質”を可視化。

  4. データと分配の経路
    自社データ(私有データ)×反復利用再現可能な優位を作る。
    販売はチャネル同盟(SI/ISV/マーケットプレイス)で厚みを。

  5. 規制知見を武器に
    医療・金融・公共は合規の“登山道”が勝敗を分ける。
    監査対応の仕立てまで含めて提供すると、価格競争を避けられる。

固まった領域に後発で挑むなら

  • 二段ロケットで差別化
    基盤モデルを内製せず、推論最適化(低レイテンシ・低コスト・オンデバイス)や限定領域での超高精度に資源集中。

  • 買収・提携前提
    コーディングやCSはM&A再編が前提補完的技術(評価・QA・安全層)で買われる位置に立つ。

  • 分野特化“深掘り”
    医療メモなら専門診療科(精神科、放射線科)で語彙・禁則・装置連携を極める。
    横展開は後からでOK。

投資家の見極めポイント

  • PoC濁流のノイズ除去
    ARR継続率、有料席比率、契約期間、拡張率を重視。
    無料席・検証席の切り分け必須。

  • モートの“実装度”
    データ更新パイプライン、モデル評価体制、統制(SOC2/HIPAA/FIN)が“後から作れるのか”を問う。

  • 人月→価値の変換
    単なる代行エージェントでは人件費とシーソー。
    自律度(ハンズフリーの割合)が粗利を決める。

  • 再編地図の把握
    買い手(クラウド、SaaS、縦SaaS)のニーズと“歯車の位置”を、Cursor×Koala/Cognition×Windsurfのような事例で先読み。

市場地図(2025年末時点の暫定版)

  • クローズ気味
    基盤モデル、AIコーディング、医療メモ、カスタマーサポート。

  • 空いている
    金融ツール、会計、AIセキュリティ、(産業別)垂直統合の現場アプリ。

  • 横断の勝負所
    評価・安全・監査・統制を“プロダクト化”する層。

まとめ

AIは「学べば学ぶほど不確実」な珍しい市場ですが、勝敗が見え始めた山まだ手つかずの谷がくっきりしてきました。

“急成長=勝ち”の時代は終わり、定着と品質が本当のシグナル

ワークフロー統合・合規・データ優位を押さえ、PoCの泡をこし取れる企業が、次の1~2年で一気に抜けます

創業者は“空いている市場で深く刺す”か、“固まった市場で歯車を握る”か——その二択を明確に。

投資家は騒音を消す指標で見極めを。
今は、勝ち筋が“言語化できる”タイミングです。

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